カワセミ その1

動物編

カワセミは私にとっては憧れの幻の鳥と言ってもよい鳥である。色々な場所で飛んでいるのを何回も見ているものの、その姿を写真に撮ったことはなかった。

 いわき市の久世原団地近くの用水路の水面上を直線的に飛んでいったのを見たのが初めてだった。その後東日本大震災で被害を受けた浪江町の沼の水面を飛んでいくカワセミや、郡山の開成山公園内の池の上を飛んでいくのを見かけたりしている。それらは全て水面上を直線的に飛んでいくのを見ただけで、その青緑色の体色が強く印象が残っているものの、止まっている状態のカワセミは見たことはなかった。

 杭や枝にとまるカワセミ

 図鑑、インターネットやテレビの放映場面で、カワセミの写真や映像を見かけるが、なぜこんなに綺麗なものを撮れるのだろう。とても疑問だった。餌を取る時間や場所が分かっていて、カワセミが飛んでくるのを長時間待ち受けて、結果的にこのような写真を撮っているのだろう。天童市の成生地区にある薬師神社でチョウゲンボウの写真を撮ろうと長時間待機している人や、名古屋市の藤前干潟で三脚の望遠レンズを構えて、夕日の中でシルエットになっているミサゴの写真を撮ろうと、長時間待ち受けている人たちを何度も見ているので、カワセミについてもそうした努力の結果の写真だろうと推測している。

  餌を採るカワセミ

蟹江に戻って善太川や佐屋川でカモや他の鳥たちの写真を撮っていると、目の前をカワセミが対岸方向に飛んでいくことがある。この辺りにもカワセミがいるらしい。カメラをオンにして連写可能にして歩いているのだが、それでも一瞬のことなのでピントは殆ど合わずぼんやりした画像になってしまう。こちらの土手から対岸のコンクリートの護岸に飛んでいき、そこに降りたったカワセミを人生で初めて撮ることに成功した。対岸まで距離があることとカメラの望遠の性能と技術からいって明瞭には撮れない。それでもカワセミらしい姿を撮ることができとても嬉しかった。そのカワセミはそこでじっとしていたが、飛び立ったので連写した。パソコンに取り込んで拡大してみたら餌を求めて水中に飛び込んでいく様子が連写した写真に写っていた。その飛んでいる姿や水中に飛び込んでいく時の写真は、当然ぼけてしまっていた。私の姿を見て飛び立ったとばかり思っていたので、その写真を見てヤッターという感じがしたものである。プロの写真家から見ると私の撮った写真は素人の写真そのものに違いないが、私にとっては念願のカワセミの写真であり、大事な宝物といってもよいものである。

カワセミの仲間にはアカショウビンやヤマセミがいるが、私はいわき市の小川郷の奥の夏井川の支流の川沿いの木で、ヤマセミの姿を一度見たことがある。ヤマセミに較べると大きく、黒と白の斑点模様だった。ヤマセミを見たのは人生でその一回だけである。アカショウビンは蔵王高原に出かけた時にそれらしい姿の鳥を見かけたことがあるもののそれと断定することはできなかった。

広辞苑でカワセミ(翡翠)を調べてみたら「ブッポウソウ目カワセミ科の鳥。スズメより大形で尾は短く、嘴(くちばし)は鋭くて長大。体の上面は暗緑青色、背・腰は美しい空色で、『空飛ぶ宝石』とも称される。清流の指標種とされ、水中の小魚をとる。巣は崖に横穴を掘って作る。ヨーロッパ、・アジアに分布。なおカワセミ科は世界に約九〇種。」と記されていた。善太川などの蟹江周辺の川は汚れていてゴミも多い。しかしそれでも川には大きなコイが泳いでいるし、スジエビなどが大量に住んでいる。清流ではないが餌は豊富なのではないかと思われる環境である。

ついでにヤマセミを見ると、「カワセミの一種。大形で、背面全体に黒と白の鹿子斑があり、頭の冠毛が顕著。わが国から東南アジアにかけて分布し、主に山間の渓流付近に住む。」とある。私がヤマセミを見た場所は、まさにこんな感じの場所だった。

 色々な場所で見かけるカワセミ

学生の頃東北大学の同級生の宇野忍さん(元東北大学教授)と話していたら、出身地の茨城県常陸太田市ではカワセミが崖に穴を開けて巣を作り、そこに飛び込んでいくと話していた。巣の造り方については宇野さんの言う通りで、頭から突っ込んで崖の土を取り除き、それをまた突っ込んで巣を深くして巣造りをしていくようである。それはヘビ、カラスなどの外敵から巣を守りヒナを守るための巣造りの習性である。オスは縄張りを作り他のカワセミとの闘いもあり、どの生物種でも生きることは大変なことだと痛感させられる。

またカワセミが食べるものは川魚、ザリガニ、カワエビ、水生昆虫等で魚だけとは限らない。タカの仲間のように足が強くないので、嘴で獲物を咥えて木の幹等に打ちつけて弱らせて丸呑みする。善太川での餌の捕獲にはスジエビなどが対象になっているようだ。魚を丸呑みするため骨などは腹の中で丸めてペレットとして吐き出す習性がある。オスとメスの違いは長い嘴で、上と下の両方の嘴が黒いものがオス、下の嘴が赤いのがメスとなっており区別しやすい。私が撮った写真からするとこのカワセミはオスだと思う。

カワセミを翡翠(ひすい)と書くのはどうしてなのかと疑問に思っていた。広辞苑で調べてみると、「①カワセミの異称。雄を「翡」、雌を「翠」という。②鳥の尾の長い羽。 ③カワセミの羽の色のように美しくつややかなもののたとえ。美しくつややかなもののたとえ。美しくつややかな頭髪。 ④玉(ぎょく)の一。鮮やかな翠緑色を呈し、緻密で光沢がある。ビルマ、チベット、メキシコなどに産し、わが国では新潟県に見いだされた。」と記されていた。これからみると、カワセミの色からこうした言葉が出てきたのではないかと考えられる。

善太川で見かける飛翔中のカワセミは色が目立つのに加えて、直線的に一気に飛んでいく姿はとても美しい。「空飛ぶ宝石」と言われるのも故なしとは言えないなーとつくづく実感する。

  水中の魚を探すカワセミ

「わらいかわせみにはなすなよ」(サトウハチロー作詞 中田喜直作曲)の童謡がある。「たぬきのね たぬきのね ぼうやがね おなかにしもやけ できたとさ わらいかわせみに 話すなよ ケララ ケラケラ ケケラ ケラと うるさいぞ」と歌う曲である。カワセミはそんなにうるさい声で鳴くのだろうか。調べてみると、チィッ、チィッという高い声で鳴き、ケララ ケラケラ ケケラ ケラ等という下品な鳴き方ではないように思う。ムクドリか他の鳥の鳴き声からの濡れ衣のような感じがしてならない。それともサトウハチローが実際の鳴き声ではなく、イメージで「空飛ぶ宝石」であるカワセミを敢えて取り上げたのだろうか。少し疑問が残るところである。そんなことを考えてしまった。

善太川にカワセミがいることが分かり、その習性を知るようになってからその出会う(見かける)頻度が多くなってきた。というのは善太川に面したコンクリートの護岸の端から、じーっと水面を見つめているカワセミを何回か見かけるようになった。動かないのは餌である魚を見続けているのだと考えるようになって、対岸から望遠カメラでコンクリートの護岸の端にカワセミがいないかを確認するようになった。スズメよりは少し大きいカワセミは同定しにくいものの、前面の体色が茶色なので背景とのコントラストで割りと探し易い。そんなことから善太川でカワセミを探し出す頻度が多くなってきたのだと思う。ここのカワセミは嘴の色からすると上述のようにオスではないかと思う。

周辺にいるカワセミはこの一羽だけかどうか分からないが、私はこのカワセミに「チッチちゃん」と勝手に名前をつけて、会うのを楽しみにするようになった。

先日対岸にいたチッチちゃんが水中に飛び込んで嘴に獲物を挟んで、川に突き出ている枯れ木の枝に止まって、獲物を木の枝に叩きつけていた。テレビで見ていた獲物を口に加えて叩きつける光景は知ってはいたが、実際にも木に叩きつけていた。その場面はカメラの連写で撮ったが、後でパソコンに取り込んでみたら、獲物はカワエビの仲間のスジエビではないかと思う。この善太川にはスジエビが沢山いるのでそれを食料にしているのかもしれない。私は初めて実際にカワセミが水中に飛び込んで獲物を狩って食べる場面を見ることができた。撮った写真は対岸からの距離と飛翔中のものが多いのでぼやけてしまっている。それでもこうした場面に出会えたことは幸運だとしか思えないのである。(ブッポウソウ目 カワセミ科 カワセミ属 カワセミ)

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