6月になるとアジサイの花が咲くようになる。アジサイはガクが花のように見えて、咲き出してからだんだんと花の色が変化していくのと、それが梅雨時期と重なって雨空のイメージと繋がっている。
アジサイ
最近はずいぶんとアジサイの品種改良がなされて、多種多様なアジサイが出回っている。私自身はガクアジサイが好きだが、日本人にとってアジサイはこうした季節の風情と関わりがある。世界で咲いているアジサイは、もともと日本原産のものが広まったという。学生たちの壁面装飾や幼児たちへの保育教材の中にも、折り紙を使ったアジサイ作りがあって保育現場にも馴染んだ教材となっている。
アジサイのガクの色が青から赤に変化していくのはリトマス紙と同じ原理である。色素のアントシアニンの一種のデルフィニジンが含まれていて、アルミニウムイオンが加わると青色となる。土壌の酸性度で花の色が変わり、「酸性ならば青、アルカリ性ならば赤」になる。根からアルミニウムイオンを吸収するには土壌の酸性度が影響する。酸性の場合にはアルミニウムイオンはアジサイに吸収されるので青色になる。土壌が中性やアルカリ性でならば、アルミニウムイオンが吸収されないので赤色になる。花を青色にしたいなら硫酸カリのような酸性肥料やアルミニウムを含むミョウバンを与える。同じ株で花の色が違うのは、根から送られてくるアルミニウムイオンの量に差があるからである。ヨーロッパはアルカリ土壌なので、ガクが赤くなるといわれている。
また花の色は日が経つと少しずつ変化する。最初は葉緑体で薄い黄緑色だが、それが分解されていくうちにアントシアニンが作られ赤や青色になっていく。さらに日が経つと青色の花も赤味を帯びるようになる。これは花の老化で土壌の特徴とは関らず起こるようである。
このように親しみがあるアジサイのほとんどは、ガクが最初から花のように群がっている。ところが福島県の浜通りで蕾のあるアジサイを初めて見かけた。場所はいわき市内の山に入った渓流沿いの山道の脇に咲いていた。季節は初夏だったように記憶している。今では東北大震災で立ち入りが禁止になっている浪江町からいわきに向かう山沿いの県道35号線を走っていた時にも、のり面でその花を見つけた。
タマアジサイ
それまでアジサイというとガクが最初から群がっているのがアジサイだと思い込んでいたので、そこで見かけたときもとても嬉しかった。花の形は芍薬(しゃくやく)が蕾になっているのと同じ風情である。葉は対生でやや卵状で花の色は薄紫であり、中には蕾のままのものがあるが、なかの花が大きくなってそれを取り巻く蕾の皮が広がって落ちそうになっていたものもあった。背丈は背が高い感じがしたが、普通のアジサイと同じ程度の高さだったかもしれない。私はこれらのタマアジサイの写真を何枚も撮った。(その写真が、今となっては探し出せずに今回掲載できないのは残念である)
いろいろ調べてみたらタマアジサイという種類で、東北南部から中部地方の山林に生えていて、福島県は北限に当たっている。この蕾(苞)は花が咲きだすと落ちると書いてあった。
人は同じ特徴を持ったものを見続けているうちに、知らず知らずに共通性や規則性を作ってしまう習性があるようだ。アジサイといえば、私たちが身近に出会っているガクアジサイなどが一般的なもので、それこそがアジサイなのだと無意識に決めつけてしまう。アジサイのもともとは自然交配で突然変異でこうしたものが現れたのだとすると、その祖先系はどんなものだったのだろう。どの花も今では人為選択をしているからある品種系が増えているが、このタマアジサイを見るとこのアジサイが祖先系であり、それから我々の知っているアジサイが生まれたのではないかと想像している。当たっているかは定かでないが、タマアジサイを通してそんな想像をしたのである。
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