カダヤシ その二

動物編

蟹江メダカだと思っていたものが実はカダヤシだった。住んでいる団地から三分ほど行った神明社脇の用水路にはカダヤシが沢山いる。田んぼの水を引く用水路は二級河川の水系によって違いがある。住んでいる蟹江町は名古屋市中川区と福田川を挟んで行政区が異なり、この福田川が境界線である。そして関西線の蟹江駅を降りると「水郷の町」の看板が見える。川や用水路が多い地域である。

  カダヤシ

 その福田川と蟹江川の間に団地と神明社があり、カダヤシがいた用水路に流れ込む水は蟹江川水系ではないかと考えられる。蟹江川水系が入り込む用水路にはどこでもカダヤシがいる可能性がある。その蟹江川の西には、愛西市と蟹江町の境界線である二級河川の日光川がある。日光川の方が蟹江川より断然広く大きい川である。(因みに蟹江川で行われる夏の須成祭りは、津島の天王祭り等の祭りと合わせて、二〇一六年にユネスコの無形文化遺産に指定された。)

 住んでいる住宅と蟹江川を挟んで反対側(西側)の用水路に行ってタモ網を入れてみたら、案の定メダカでなくカダヤシが捕れた。団地近くの用水路は殆どカヤダシしかおらず、メダカを見つけることはできなかった。団地の南西に貯水池があるがその脇の狭い用水路にもカダヤシがいた。その用水路にはライギョもいて姿も見えるが近づくとバシャッと大きな水音を立てて潜ってしまう。この辺りは全てカダヤシではないかと思うようになった。

  カダヤシのオスとメス

 木曽川に近い愛西市の「立田道の駅」は、近くに大きなハス田がありレンコンの食材を販売しているので有名である。この道の駅は県道一二五号線の木曽三川公園から桑名市の多度町に通じる立田大橋の手前にある。ここではレンコンの天ぷら、レンコンコロッケ、レンコンハンバーグ、レンコンパン等レンコンを材料にした商品を売っている。また新鮮野菜も割安で売っているコーナーもある。そのガラス窓を隔てた屋外の野菜や花の苗を売る棚には、メダカの番いを小さなプラスチック容器に入れて売っている。白っぽいメダカ、楊貴妃等の今流行りのメダカと共に、愛西市のメダカも売っている。愛西市にはメダカがいるらしい。

 私が住んでいる蟹江は海部(あま)津島地区といって、名古屋市から見て三重県と岐阜県の間の尾張地域である。名古屋文化圏の中ではまだまだ田舎の風情があり、私には安心できる地域である。しかし川の水が汚れていてイライラするのも事実である。愛西市はこの地域でも津島の北西から弥冨市と蟹江までの広い範囲に亘っている。愛西市のメダカはどこにいるのだろうと思うようになった。

 蟹江の団地周辺ではカダヤシが多くてメダカが見当たらない。日光川の西側に行ったら日光川水系だから、蟹江川水系とは異なる筈だと考えて、とにかくメダカ探しをするようになった。関西線永和駅北側の水田地帯で、数年前にメダカ(信じていた)を捕った経験があったので近辺の用水路にメダカ探しを行った。六月になって田んぼの水を落とした用水路に沢山のメダカだと思われるものが群れていた。成魚になっていない今年孵った稚魚である。それをタモ網で掬ってバケツに入れすぐに帰宅して、透明なプラスチック瓶に入れて尾びれや尻ビレなどを調べてみたら、それは明らかにメダカであった。この辺りにはまだメダカがいるんだと思って嬉しくなった。

 タモ網で捕ったメダカ

  蟹江で捕った希少なメダカ

 関西線を挟んで南側の流通センター近くの用水路にもメダカがいた。ここではその数は少なく水が流れているが水温は高くない。ここにはハゼの仲間のヌマチチブやシマエビ、ドジョウ等がいて他の場所では見かけない魚が捕れる。日光川の西側はまだカダヤシで汚染されていない場所もあるようなのだ。

 永和駅の北側の田んぼが広がっている用水路で魚を捕ったら、そこにはカダヤシがいた。その用水路にはタイリクバラタナゴの稚魚がいて、それらを捕りたいために何度も足を運んでいた。その用水路はメダカではなくカダヤシだった。大きな用水路と繋がっている一つの田んぼを隔てた隣の用水路ではメダカがいる。メダカが住んでいた場所にカダヤシが侵入して来たのではないか。歳と共に視力が衰えてきたのと魚のひれが体にくっついてしまって、捕った時点ではメダカかカダヤシかが分からない。メダカもカダヤシも上から見ると同じようにしか見えず区別できないのである。

 永和駅近くの関西線沿いの用水路には、メダカがいることが分かった。この用水路ではモツゴ、シマエビ、メダカ、タイリクバラタナゴ、ザリガニ、カメが捕れる。かなりの数のメダカが泳いでいる。何とか数を減らさないようにしたいものである。この愛西市のメダカ(これまで蟹江メダカと言っていた)を捕ってきて他の地域のメダカと混在しないようにして育てている。メダカは稲作と関連しながら生きていて地域によって遺伝子が固定されているからである。

 その後日光川の西側にある善太川水系だと思われる、永和中学校の南側の田んぼ脇の用水路に出かけてタモ網を入れてみたら、そこにいたのは全てカダヤシだった。その時にライギョの稚魚も捕った。

最近になってタイリクバラタナゴ以外のタナゴが捕れないかと「立田道の駅」近くの用水路に行ったらメダカの群れらしいのがいた。そこでタモ網を入れて何匹か捕って、家に帰って透明なプラスチック瓶に入れて見たら案の定カダヤシだった。道の駅で売っていたメダカはその近辺で捕ったものではなさそうである。

 カダヤシとメダカは、カダヤシがカダヤシ目でメダカはダツ目で分類上は別の系統なのに、食物連鎖からすると同じ生態上の位置にある。メダカとカダヤシはその位置を巡って、長期間に亘って闘っている。永和駅周辺のメダカとカダヤシの関係を見ると、これまでメダカが生きていた環境にカダヤシが侵入して来たと考えられる。メダカは卵を藻やアオミドロなどに産みつけ、それが孵って稚魚となる。大きくなるまでに捕食されてしまう確率も高い筈だ。それに較べてカヤダシは卵胎生だから藻がなくてもオスとメスがいれば、体内で稚魚がある程度の大きさになって出産することができる。つまり環境が多少悪くても出産できる可能性が高いのである。そう考えるとメダカに較べてカダヤシの方が、断然生き延びる可能性が高いことが予想できる。カダヤシに較べて昔から馴染んできた生命力が低いと思われるメダカの存在を考えた時、か弱さゆえに判官びいきのような共感めいたものが湧いてくるから不思議である。何とかこの地域でメダカが絶滅しないようにしたいものである。

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