タニウツギ

 六月から八月頃にかけて、山沿いの林の中でピンク色で群れて咲いているのがタニウツギである。細い枝が集まっており、その枝先に花が咲いている印象がある。花の色には真紅に近いものもあるが、多くのものはピンク色のものが多い。私にとっては初夏の風物詩ともいえる植物である。

 このタニウツギを私は、ずーっと最近までウツギだと考え、咲いている花をウノハナだと思い込んでいた。唱歌「夏は来ぬ」の歌詞「うのはなの匂う垣根に、ホトトギス早も来鳴きて~」の花は、このタニウツギだと信じていたのである。

   タニウツギ

 何十年か前、仙台の五橋の人間開発センター内に、子供たちを対象に教材開発する目的でバウハウスが設けられた。私はバウハウスの校長で、毎週日曜日に自分で考えた教材や、宮城教育大学の先生や東北大学の大学院生に講師になってもらって、子供たちの教材に対する反応を検討する活動を行っていた。

  ウツギ

 その活動の中で、宮城教育大学の武田先生が、子ども相手に火起こしを行ってくれたことがある。一つは、火打石による火起こしである。白い岩石(石英?)と鉄片をシュッシュッとぶつけて引っ掻くと火花が出る。火花を点ける脱脂綿は一度火で炙ってカンに入れて密封すると、その表面が炭化して一種の炭状態になる。火打石で跳んだ火花を脱脂綿に近づけると火が移る。ただし、炎になるというのではなく赤い火が次々と脱脂綿の上を動いていくのである。それにティシュペーパーなどを近づけてフウフウと息を吹きかけると、炎が上がってティッシュペーパーに火がつく。割と簡単に火が点くので吃驚した。

もう一つは、舞錐(まいきり)を使った火起こしである。単に木材の上にちょっと穴を空けて、一本の木を手で擦りながら回しても、ほとんど火を点けることはできない。それよりは紐を使って梃子の原理が生きるような舞錐の方が簡単に火が点く。ただし、武田先生は火を点ける台には杉材を使っていた。しかも台に穴を錐で少し開けて、舞錐の芯がぶれないようにしていた。その空ける穴は台の真ん中ではなく台の端っこから少し離れたところに穴を空け、小刀で切り込みを入れて台の外に粉が落ちるようにしていた。台と擦りあう舞錐の先端は檜(ひのき)を使っていた。この先端の檜と杉の土台を擦り合わせると、先端の檜と杉が擦れて、細かい粉となりながら加熱していくので、空けた穴は大きくなり粉が台の外に出てくる。そのうちに焦げた匂いがして、擦り合わさった粉が赤くなる部分ができてくる。それにティッシュペーパーなどを近づけると、炎が上がって火が点く。

この発火しやすくするための錐の先端と台になる木材は、どれが良いのだろうとずーっと考えていた。色々やってみて台には檜が良いのではないかと考えるようになった。というのは檜には油脂が含まれているからである。錐の先端部分はどれが良いかと考えていたら、ある資料でウツギの木が良いと書かれていた。ウツギは空木と書くので、中心部が空洞になっているのではないか。そうだとすれば台と擦れあって細かい粉になり易いことになり、芯の条件を満たすことになる。またその資料には、セイタカアワダチソウが良いとも書かれていた。

  セイタカアワダチソウ

ウツギと信じていたタニウツギとセイタカアワダチソウを採ってきて、それを乾燥させて使ってみた。セイタカアワダチソウは木本科ではないが、乾燥すると固くなって、芯として十分使えた記憶がある。タニウツギの方は本当のウツギと比べて効果があったかどうかはわからない。今回調べてみたら、ウツギはユキノシタ科であり、タニウツギはスイカズラ科に属していて、全く異なる種類の木であることが分かった。どうも名前が同じようなので同じものと勝手に判断していたのである。今更ながら自分の学力不足を悔いているところである。

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