梅にウグイスというのが一般的に対連合されているが、しかし実際にその場面を見たことはない。花札にもウメにウグイスとなっているが、実際にウメの蜜を吸いに来るのはメジロである。緑色の羽からそう思われてきたのだろう。
知人宅の庭には餌台が三つあって、十二月から三月まで主人が毎朝餌をやっている。鳥たちがやって来てその餌を食べて東北の厳しい冬を越している。朝方になると餌はまだかと近くの木々や竹林で待っていて、三つある餌台の一番端に餌を入れて次の真中の餌台に餌を入れ始めると、もう最初の餌台にスズメが群がって餌を啄んでいると話してくれた。その餌台に来る鳥たちはスズメ、カラス、ヤマバト、ヒヨドリ、ツグミ、シメ、ウグイス、シジュウカラ、カワラヒワ、ムクドリ、アオジ、メジロなど多様である。鳥たちによっては毎日来る鳥もいれば、日によって来たり来なかったり鳥もいて、午前と午後の時間帯によっても違っている。
庭の餌台にやってきたウグイス
ウグイスは毎年姿を見せているが四六時中来るということはなく、ある一定期間だけ来る感じである。十二月半ば過ぎになると餌台に来て、尾を振りながらきびきびした行動で、パン屑や雑穀などの餌をとっている。それもさっと来て餌を食べるとすぐに去ってしまう風情である。スズメやムクドリのようにその場にずーっと居座って餌を採るというのではない。ウグイスの体色はくすんだ緑色だと思っていたものの、実際の体色はそれよりももっとくすんでいた。私のイメージではメジロのような黄緑色が強い感じに思っていたのである。その季節には竹藪の中で「チッチッ」と鳴いているのが聞こえる。私たちが知っている「ホーホケキョ」とは鳴かない。この「チッチッ」と鳴くのを「笹鳴き」と呼んでいる。鳴くのはオスだけで「ホーホケキョ」と鳴くのは、他のオスに対する縄張り宣言やメスに対するアピールである。この時期の笹鳴きは繁殖期になっていないからこんな鳴き方である。
岩沼から村田町に抜ける県道二十五号線から左に折れる雷・馬場線林道(一六七九メートル)の先に、村田の端(はずれ)に抜ける山道がある。そこにいつも野草の写真を撮りに入るが、五月になると木々の間からウグイスの「ホーホケキョ」と鳴く声を聞くようになる。縄張りを作りまたメスに呼び掛けているのではないかと思われる。その頃には「チッチッ」と鳴く笹鳴きではなくなっている。鳴いている辺りにカメラを向けて写真を撮ろうとしても他に移動してしまう。そこでまた「ホーホケキョ」と鳴いている。危険を避けながらも自分がそこにいると訴えているのだろう。
昔ある本で、ウグイスの「ホーホケキョ」と鳴く鳴き方には方言があるということを読んだことがあった。「ホーホケキョ」と鳴く鳴き方は、ウグイスの本来の鳴き方が生理的に固定的に決まっている訳ではなく、外的な刺激による学習と関係しあっているらしい。先輩のウグイスの鳴き方を聞き真似しながら、その鳴き方を少しずつ学習して上手になっていく。カモ類等の水禽(すいきん)類の刷り込み学習と同じように、鳴く仕組みは生まれながらに決まっているが、その具体的な鳴き方は先輩のウグイスの鳴き方に影響されながら学習していく。鳴き方の質が縄張りを守ることとメスへのチャーミングさを訴えることになるのだろう。鳴声で競うことがメス獲得に大きな条件になっているようだ。
山で見かけたウグイス
ある年の春先に知人宅の敷地内で、二羽のウグイスが頻繁に鳴き合っていた。自分の縄張りだとお互いに主張して争っている風情だった。かなりの時間鳴き合っていたが、その後一羽の鳴き声だけが聞こえるようになった。縄張り争いで勝負がついたのではないかと推論している。
動物の縄張りやメス獲得の争い等、生死をかけて争っているのを見ると、人間ほどノー天気な動物はいないのではないかと思うことがある。自然の秩序の中で生きていくことは本当に大変だなぁと、いつも実感させられてしまう。
生きていくことの大変さと関係して、ウグイスは巣に托卵されて他の鳥のヒナを育てさせられてしまうことを思い出した。カッコウ等のホトトギスの仲間から托卵されるのである。托卵するホトトギスの仲間にはカッコウ、ホトトギス、ツツドリ、ジュウイチがいる。ウグイスに托卵するのは殆どホトトギスだという。ホトトギスは山に入ると「キョキョキョキョ」と鳴いているのを聞くが、私には「テッペンカケタカ」とはどうしても聞こえない。ウグイスの卵はチョコレート色だが、ホトトギスの卵も同じ色でウグイスの卵より少し大きい程度である。ホトトギスの体はヒヨドリ程の大きさなのに、ウグイスはスズメ程の大きさしかない。托卵する卵の大きさはウグイスの卵一・五グラムに対して、ホトトギスは三グラム位である。因みにヒヨドリの卵は六グラム程度なので、ホトトギスは托卵するウグイスの卵の大きさに合わせて、体より小さい卵を産んでいることになる。
ホトトギスの托卵相手の殆どはウグイスだが、他にミソサザイがいる。しかし卵が白っぽかったり白に茶の斑点があるので、ミソサザイがホトトギスの卵と区別して捨ててしまう行動も見られるという。ホトトギスの卵はウグイスの卵より数日早く孵って、ウグイスの卵全てを巣の外に投げ出し親を独り占めするので、この托卵数が多ければ、ウグイスの数は増えないことになる。ホトトギスの仲間はそれぞれの鳥の卵と似通った卵を産んで、紛れ込ませようとしている。これも托卵する鳥たちがそれぞれの相手との関係で作り上げてきた結果だろう。長い時間の経過の中で特定の相手を選びそれとの関係を進化させてきた結果に違いない。
「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉 上田秀雄 山と渓谷社)のウグイスの項目では、「留鳥。一部の地方では漂鳥。環境は平地から山地の林、ササ類や灌木の多い高原、藪や植栽の多い公園、庭、川原など。行動は繁殖期以外は一羽で、藪や垣根などを好んで生活するが、秋の渡りの頃には小群で行動している。繁殖期には、はっきりとした縄張りをもち、林床にササ類のある林を好んで生活する。一部のものは一夫多妻で繁殖。主に昆虫類、クモ類などを採食。鳴声は繁殖期のオスはササ藪の中や低木の梢にとまって『ホーホケキョ』とさえずる。また、突然『キョキョ…ケキョケキョ』というけたたましい声を出す。これは『谷渡り』と言い、主に警戒のときに出す。地なきは『チャッチャッ』『ジャッジャッ』と鳴き、『笹鳴き』と呼ばれる。」と記されている。
確かに夏から秋にかけてウグイスを見かけない。山に入ってもそれらしい鳥を見たことはない。囀っていないから分からないだけなのだろうか。冬になると仙台周辺では餌台にやって来るし、春の半ばには山で囀りを聞くことがあるのに、夏から秋までどうしているのだろう。他の地域に移動でもしているのだろうか。とても不思議である。(スズメ目 ウグイス科)
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