トンボの産卵方法

その他編

幼い時からトンボとは親しい関係だったから、その産卵風景も多く見てきた筈だった。私にとってギンヤンマが一番関心のあるトンボで、その習性についてもそれなりに知っていた。その経験もあってギンヤンマの産卵方法が一般的で、他のトンボの産卵方法でも同じだと思い込んでいた。

 ギンヤンマの交尾態と連結産卵

 天童から山形市の高瀬を過ぎて紅花トンネルへ抜ける県道二七六号線の脇に谷川が流れている。夏になると娘が孫と一緒にセミやトンボ捕りに来ると、天童市内の公園でセミ捕りをし、原崎沼や山元沼でトンボ捕りをしてから、高瀬の谷川に水遊びに行っていた。そこにはカワトンボがいて、川の淀みに小さな魚がいる。それを捕って遊んだりした。ある時にその川の淀みにオニヤンマが飛んで来て、真っ直ぐに立ち上がりながらその尻尾を何回も水中に突っ込んでいるのを見た。その様子を見た時にとても吃驚した。立ち上がりながら尻尾を水中に突っ込んで産卵する方法は全く予想していなかったからである。

 最近になって、シオカラトンボもオスとメスが連結しているが、その連結したままの状態で産卵している様子を見かけたことがない。メスだけで水面を叩くようにして産卵している。その上空でオスが警護飛行をしているケースを何回も見かけた。このことも最近知ったことである。連結するのは交尾するためで、精子をメスに送り込むための必要な行動だが、産卵する時は繋がったままでなくても良いということである。

  シオカラトンボの連結態と警護産卵

シオカラトンボのようにオスが上空で警護飛行しないまま、メスが水面を叩いている別の種類のトンボも見かけた。夏になると産卵と羽化を繰り返しながら日本を北上するウスバキトンボである。コンクリートの道路にできた水溜りに飛翔しながら産卵していた。これも最近になって見た光景である。トンボの産卵行動も、その積もりで観察しないと見えども見えずということだろうか。トンボの産卵方法について調べてみると、随分と多様であることが分かってきた。

 トンボの産卵には、飛翔しながら産卵するものと止まって産卵するものがある。飛翔しながら産卵するものにはシオカラトンボ、ウスバキトンボやオニヤンマなどがいる。止まって産卵するものにはイトトンボやギンヤンマがいる。

またオスとメスが繋がって産卵するものとメスだけで産卵するものがいる。繋がって産卵するものにはイトトンボやギンヤンマがいる。メスだけで産卵するものはシオカラトンボ、ウスバキトンボやオニヤンマがいる。

 産卵する場合に、水中にただ卵を落とすだけの産卵方法と、そうでない産卵方法がある。水中に卵を落とす産卵方法にはシオカラトンボやウスバキトンボのように水面を叩きながら産卵(打水産卵)するトンボがいる。メス単独だけでなくオスとメスが繋がりながら打水産卵するコノシメトンボ等のアカトンボの仲間もいる。他にはホバリングしながら卵の塊を水面に落とす停止飛翔産卵するサナエトンボの仲間や、水面を叩いて水しぶきを上げてその中に卵を含ませて前方にあるものに付着させる飛水(ひすい)産卵するオオシオカラトンボ等もいる。オニヤンマのような垂直に立って流れの底に産卵するのを挿泥(そうでい)産卵という。このように飛翔しながら産卵するにしても色々な産卵方法があり多様であることに驚く。

  アキアカネの連結打水産卵

 水中に卵を落とさない産卵方法を採用しているものは、殆どの場合止まって産卵するトンボである。ギンヤンマの場合には連結したまま止まって、メスが水面から水中の植物の茎の中に卵を注入していく。私はこのことをずーっと分からないでいた。止まってただ水中に放出産卵していると考えていた。こうしたことが分かると、メスが尻尾を折り曲げながら産卵している情景が理解できるようになった。この尻尾を折り曲げる産卵方法は連結したキイトトンボ等のイトトンボの産卵や、メス単独で産卵するハグロトンボ等でも見られる。これらの産卵方法は敵から卵を守る方法としては、合理的な感じがする。他には水面から高い植物の茎に産卵するアオイトトンボや、水中に潜りながら植物の茎に産卵するイトトンボもいる。どうもオスとメスが連結する場合もメスだけの単独での産卵方法でも、卵を植物の茎や葉っぱの中に埋め込んで産卵をしている。確実に卵が孵りやすい産卵方法と言える。

 こう考えてみると、飛びながら産卵するトンボではきっと産卵数はかなりの多いのではなかろうか。それに較べて止まって産卵するトンボでは、産卵数が少ないのではないか。魚の産卵数ではマンボウが二~三億個なのに、トゲウオは一〇〇個前後である。マンボウは産みっぱなしなのにトゲウオは巣の中に酸素を送る等して孵化を助ける。少なく産んで確実に育てる方法と、産みっぱなしの方法との違いがトンボの産卵でもきっとあるのではなかろうか。いつか詳しく調べてみたいと考えている。

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