イソヒヨドリ

蟹江のある尾張西部(名古屋市中川区の西から木曽川まで)でも、天童周辺同様に色々な動植物を見かける。新しい動植物がいないかと歩き回っているが、だんだんこれまで撮った動植物に限られてくる。三重、岐阜、滋賀や福井県方面に遠征すれば、違った種類の動植物が見られる可能性があるかも知れない。

 久し振りに伊勢神宮に行った。いつも最初に外宮に行きそこから内宮に参詣する。外宮は豊受大神宮と呼ばれ、天照大御神の神饌(しんせん)を司る豊受大御神を祀っている。言ってみれば天照大御神の食事担当の神である。そこを参詣してから内宮(皇大神宮)に行く。内宮は天照大神が祀られている。江戸時代からお伊勢参りが盛んだった。というのも旅行ブローカーである御師(おんし)たちが諸国を回って、伊勢暦の販売と伊勢参りを勧誘したからである。享保三年(一七一八年 将軍吉宗の頃)お伊勢参りした人数は、およそ六〇万人に上ると言われている。ある本を読んでいて面白かったのは、外宮から内宮に行く間に古市という遊郭があった。旅人は一生に一度の旅で、外宮に参詣してから内宮に行く前に、古市に寄って精進落としをした。その結果、内宮への賽銭が少なくなってしまった。その賽銭額について外宮と内宮の争いがあったという。内宮からすれば本家本元の天照大御神の神饌を扱う豊受大御神は格下なのに、賽銭額が多くなるのは合点がいかない。しかし伊勢参りする庶民からすれば、信仰の深さよりは旅を満喫するためだけなのだから、内宮と外宮のそうした争いごとは関係ないのだ。

 外宮は駐車場から本殿が近くなのに、内宮はかなり歩くことになる。私はいつも有料駐車場に車を置いて「おかげ横丁」をぶらぶら歩きながら行く。そして五十鈴川にかかる宇治橋を渡って砂利道を歩いて行く。前回来たときは式年遷宮の少し前だったので、隣に新本殿を造営するための架設の建物が見られたが、今回はそうしたことはなかった。お参りしてから、途中で帰り道は右側に折れる。その途中に神馬が置かれた家屋がある。前回はその神馬がいたが今回はいなかった。

その建物の近くの砂利道の上にムクドリかヒヨドリ位の大きさの鳥がいて、何かを口に咥えていた。私は一瞬ムクドリかオオルリではないかと思った。しかしオオルリはそんなに大きい筈がない。光の加減で黒か濃い青色(紺色)に見えた。しかしムクドリなら嘴(くちばし)が黄色なのにこの鳥は黒っぽい色だった。ヒヨドリのように灰色でなく、アカハラやツグミでもないしと悩んでしまった。この鳥は蟹江周辺では見たことがない。そう言えば数年前に紀伊勝浦の熊野那智大社に登る石段の脇の草原でも、この鳥を見かけたことがあった。そんなことがあって帰ってから調べようと思った。

その日は鳥羽市の的矢湾近くの相差(おうさつ)町の民宿に泊まることにしていた。海辺近くの民宿なら、海産物の料理が出る筈だと考えていたからである。三時にチェックイン予定だったが早すぎたので、近くの相差漁港付近に車を停めて海を眺めていた。するとその漁港の上空をトビが数羽悠々と飛び始めた。車から降りてその写真を撮った。しかし曇り空だったことと電線に邪魔されて上手く撮れなかった。そんなトビを撮っていたら波止場のコンクリートの上に、伊勢神宮の内宮で見かけた鳥が止まっていた。急いで何枚か写真を撮ったが飛んでいってしまった。少し経ったら交通標識の上に止まっていた。また何枚か写真を撮った。今度は移動して電線に止まった。その写真も撮った。この鳥は近くに住みついているようだった。カメラの再生写真を見ると、腹の周りは赤味がかっているが背中や首筋は濃い紺色である。姿はツグミかアカハラのようだった。

帰宅してから調べてみると、イソヒヨドリという鳥だった。ヒタキ科の仲間であり、スズメ目、ヒタキ科、イソヒヨドリ属、イソヒヨドリとなっていた。同じヒタキ科のツグミと似ていた。ユーラシア大陸にいて日本では本州以南で見られるという。イソヒヨドリは海岸や港などで多く見られるとのことで、私が相差(おうさつ)漁港で見かけたのはそんな場所だった。イソヒヨドリの食性は甲殻類、昆虫類、トカゲ、ヘビ等と記されていた。また住んでいる場所は「野鳥図鑑 陸の鳥①」(保育社)によれば「海岸の荒磯などの岩石地に見られ、コンクリートの防波堤や、コンクリートブロック、大岩の上、人家の屋根にもよくとまっている。岩石海岸の周辺の人家にもよく現れる。さえずる時はビルディングの上や電線、テレビアンテナ、火の見やぐらなどにとまる。内陸にはほとんど見られないが、ときどき川沿いに入ることがあり、川沿いの岩石地に現れる」と述べられている。

伊勢神宮にはイソヒヨドリが伊勢湾から五十鈴川に沿って上ってきた可能性がある。内宮への入り口である五十鈴川に架かる宇治橋から下流の淵でカワウが水中に潜っているのを見かけたこともあるが、ウミウでないにしても海からそんなに遠くないことの証ではなかろうか。私以外にもインターネットに伊勢神宮周辺でイソヒヨドリを見かけたと記していた関東からの参拝者の情報もあった。恒常的に伊勢神宮の敷地内にはイソヒヨドリがいる可能性がある。

先日仙台の知人と話をしたら鳥の餌台にアカハラ位の大きさで胸が赤っぽく羽がブルーの鳥を見かけたと言っていた。初めて見た鳥で名前が分からないとのことだった。その鳥の特徴を聞いているうちに私はイソヒヨドリではないかと思うと答えた。海岸線から仙台平野の街並みまでは、それほど遠くなく、川沿いに上がってくる可能性があるからである。五十鈴川の例と同様に考えてのことだった。

イソヒヨドリについてまだ詳しいことは分かっていないが、海辺に近い場所に住んでいること、肉食の食性であることを知ることができた。私が見かけたのはすべてオスであることは言うまでもない。今後イソヒヨドリに注意して見ていこうと考えている。(スズメ目 ヒタキ科 イソヒヨドリ属 イソヒヨドリ)

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