アオイトトンボ

動物編

イトトンボの仲間は小さい時から見かけているが、どんな名前でどんな特徴があるイトトンボかよく分からないでいる。昔からよく知っているハグロトンボは羽を閉じて止まるし、イトトンボの多くも翅を閉じて止まるものが殆どである。

小学生の頃に昆虫図鑑を見ていて、翅を閉じないイトトンボがいることや、冬を成虫のまま越冬するオツネントンボがいることを知った。私が周りで見かけるイトトンボは、青色だったり緑色だったりしていて全て翅を閉じて止まる。
小学生の頃にアオイトトンボを見かけた筈だが、具体的な場所やその時の状況を殆ど思い出せない。ただアオイトトンボの緑色の金属製の光沢とその翅の開いたまま止まる特徴だけが観念的な思いへと昇華していき、具体的な記憶を失ってもずーっと残っていた。

数年前に紅花の産地である山形市高瀬地区に、十月初旬に植物の写真を撮りに行った。アカネの花が終わって実が出来ている時期でその写真を撮りたかったからである。高瀬の村山高瀬川の「お出会い橋」から紅花トンネルに抜ける道路の途中に左に入る脇道があり、その脇道の東側は奥羽山系に繋がる裾野で西側は田んぼや畑になっている。東北の秋の里山の風景を彷彿と感じさせる風情がある。

そこをぶらぶら歩いていくと五枚の赤い花托に囲まれた青紫の実をつけたクサギがなっていた。その写真を撮ってからアカネの実があるか探していると、付近のツル植物に割と大きなイトトンボが止まっているのを見かけた。そのトンボはイトトンボなのに翅を広げて止まっていた。体色は光沢のある緑色だった。私は見た瞬間にアオイトトンボだと思った。そのアオイトトンボは飛ばずにヤマノイモの蔓(つる)にじーっと止まっていた。そこで写真を何枚か撮ったが、パソコンに取り込んだらピントが合わずにぼやけていたものが多かった。そのアオイトトンボは飛び立たなかったので、そのまま先の方まで歩いて行った。すると数個ずつまとまって青い実をつけているアオツヅラフジがあった。そこで写真を撮った。この植物は長い間名前やその特徴が分からない植物だった。アオツヅラフジの写真を夢中で撮っていたら近くにもアオイトトンボが止まっていた。脇道にアオイトトンボが数匹いたことになる。

調べてみたら、アオイトトンボは五月から十一月位まで見られ、全長は三五~四八ミリ程である。交尾は水辺の植物に止まって行われ、連結した状態で水辺のガマやイグサなどの植物の茎に産卵するという。面白いのはメスが産卵のために水中に潜って産卵するという。場合によってはオスも水中に没することもあるらしい。未成熟のアオイトトンボは水辺を離れて林縁で過ごす。
私がアオイトトンボの写真を撮った場所は水辺というよりは林縁だったので、まだ成熟していなかったのかもしれない。この脇道の入り口付近に村山高瀬川の支流があり近くにはハス田がある。ハス田の水辺にはガマが生え、真ん中にハスが生えている。ハス田の端にはイグサの仲間も生えている。アオイトトンボの繁殖に最適な場所が近くにあるいことになる。

 アオイトトンボの仲間には、アオイトトンボとオオアオイトトンボの二種類がいる。どちらも翅の付け根が細くなっている点は共通しているが、次の点が違っている。アオイトトンボの複眼は青いのに、オオアオイトトンボの複眼は緑色から青緑色である。また成熟してくるとアオイトトンボの胸と尻尾の部分が白くなるのに、オオアオイトトンボは尻尾だけが白くなる。また翅の端にある縁紋もアオイトトンボは細長いのに、オオアオイトトンボはそれ程ではない。この違いから判断して私が撮ったアオイトトンボはオオアオイトトンボではないかと推測している。

オオアオイトトンボの写真を撮ったが、これまでパソコンに入れてあった写真を再整理したら、イトトンボのフォルダーに偶然オオアオイトトンボの写真が入っていた。しかもオスとメスが連結している写真だった。撮った場所は天童の原崎沼の「網張の里」だったがその当時は全く気がつかなかった。
十月下旬に短大の卒業生二人と一緒に原崎沼に出かけた時、オオアオイトトンボをまた見かけた。時期が合えば見かけやすいトンボに思えてきた。

「日本のトンボ」(御園暁 川島逸郎 二橋亮 文一総合出版)のオオアオイトトンボの項目には、「生育環境は平地~山地の樹林に囲まれた池沼・湿地。高山では珍しい。生活史は卵期間四~七か月程度、幼虫期間二~三か月程度(一年一世代)。卵で越冬する。形態はオスとメスともに成熟しても胸部に白粉を」おびない。成熟オスは腹部第十節に白粉を帯び、メスでも薄く帯びる個体がいる。備考として、集団で樹木で産卵するため、かつては蚕業害虫扱いされたこともある。秋の夜間にも産卵するなど寒さに強く、成虫越冬する種を除きき、均翅亜目の中では最も遅くまで成虫がみられる。夏に羽化した成虫は薄暗い林内で未成熟気を過ごし、秋になると水辺に戻る。オスは水辺の植物に止まって縄張りを占有し、時々周囲を飛んでメスを探す。晩秋~初冬にかけては、日向の地面に止まっている姿も良く見られる。産卵行動はときには深夜から明け方に及ぶ。」と記されている。

成虫で越冬することはないだろうが、随分遅い時期まで活動しているトンボである。私の経験からも十月を過ぎてからの出会いだったから、アカトンボと同時期に遭遇するトンボと考えた方が良いだろう。
色々調べているうちに、オオアオイトトンボの体月の細部の違いや生態の違いを詳しく知っている人が沢山いることを思うにつけ、マニアックになることが自然の世界を深く知るための必要条件ではなかろうかと思うようになってきた。

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