フタリシズカ

ヒトリシズカとフタリシズカはセンリョウ科の植物だが、私は宮城県の村田の山道で春にヒトリシズカが葉を出して花が咲いているのを見たことがある。よく図鑑に載っている姿形と全く同じだった。葉は若い茶緑か黄緑で、葉で囲んでいる花茎が飛び出しており白い髭が生えているようなそんな風情だった。時期は5月の連休頃だったと思うが、その時期しか山には入れないので、それが大きくなったのを見たことがなかった。

   フタリシズカ

 数年前に岐阜県の養老町の養老の滝を見に行った時、その登山道の傍らにヒトリシズカだと思われる数株が咲いているのを見た。茎の上に一本の髭のようなものが突き出ていたので、瞬時にヒトリシズカだと判断して写真を撮った。その頃、東北にも咲いているシャガのことが気になっていた。東北では山に入ってシャガを探そうとしても簡単には探せない。人に頼まれて自然に生えているシャガを数株採りたいと探しても、なかなか見つけられなかった。ところが名古屋に帰省して東山動物園に行くと、園内の土手にもシャガの花が咲いていたし、養老の滝への登山道の土手や崖っぷちにも一面にシャガが咲いていた。シャガがこの地方では普通に咲いているのだと実感したのだった。

   シャガ

 フタリシズカは名前だけは知っていたが、最近まで実際に見たことはなかった。5月から6月頃、東根市にある水晶山(650㍍位)に出掛けたのである。水晶山は深い山という訳ではないが、農家の畑や果樹園を過ぎて少し入り込むと、山の中に入ってしまう。アスファルトの山道はすれ違うのさえ難しいが、15分位登り詰めると終点にある小さい駐車場に着く。そこからが水晶山への登山道になっている。それを登っていったら、一面にフタリシズカが咲いていた。図鑑などで知っていたので実際に見た瞬間にフタリシズカだとすぐ分かった。それらが咲いているところは、杉林の下草が生えている薄暗いところだった。そこで写真を撮ったが、これが生まれて初めて見たフタリシズカである。その周りにマムシグサ(テンナンショウの仲間)もあちこちに生えていた。

 フタリシズカと言っても、葉の上に出ている米粒をつけたような花茎が2本ではなく、3本や4本と色々だった。私はてっきりフタリシズカに相応しく、2本の花茎が出ていると思っていたが、そうではなかった。でもそれぞれの花茎が出ているフタリシズカが周り一面に咲いていると、やっぱり嬉しくなってしまう。ましてやその風景の中には私一人しかいないのだから。こうして私は、ヒトリシズカとフタリシズカを実際に知ることができた。

    ヒトリシズカ

 ところで、このヒトリシズカ、フタリシズカという名前は、どこから来たのかと思って調べてみた。とにかく優雅な名前だと思ったからである。ヒトリシズカは、やっぱりあの静御前からつけられた名前のようだった。源義経の側室で白拍子だった静御前が、吉野で捕らえられ、鎌倉の鶴岡八幡宮で義経を慕う歌を歌いながら一人で舞を舞ったことに由来するらしい。フタリシズカは、静御前の亡霊とそれに憑かれた女の二つの関わりからつけられたものらしい。「しずやしず しずのおだまき 繰り返し 昔を今に なすよしもがな」と二人が舞う姿が妖しい世界を感じさせるのである。静御前の深い悲しみと義経への想いが入り乱れている。こうした物語を取り入れて、この2つの植物にこの名前をつけた人の見識や風情のある様子には感心するばかりである。

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