イチゴはバラ科の花だから、花弁(はなびら)は五枚である。ホームセンターに行ったら、入り口近くに花や野菜の苗などを並べて販売していた。それらを眺めていたら、イチゴで、花の色がピンク色のものが売られていた。商品名には、ストロベリーブーケ・サクラと書かれていた。花の色がピンクのものは初めて見たので吃驚した。その脇には、普通の白い花のイチゴがあって、どんどん品種改良されているんだなぁと思って見たのだった。インターネットで調べてみたら、ストロベリーブーケ・ウメ一号と命名されているものもあるから、ピンク色でも、花だけでなく味や大きさの品種改良が頻繁に行われているのだろう。
イチゴの花と実



学生の頃、指導教官の細谷純さんが、授業の中で、イチゴの花の話をして、イチゴの花は雄しべが沢山あり、とても猥褻な感じがすると話していた。その当時の私の学力からすると、そうした見方をすること自体がとても変わった考え方に思え、この先生はどこかおかしいのではないかとさえ思ったものである。でも色々な領域の教材研究などを通して、動物の生殖器と同様に、花は植物の生殖器であることを学ぶようになって、細谷さんの考え方が異常とは思えないようになった。動物の生殖器を直接見ることは憚られ、それは社会の常識と考えられているが、だったら植物の生殖器である花に、猥褻感を感じることも異常なことと思えないようになったのである。私自身はこうした経験から、ユリの花は雄性先熟であり、雌しべが成熟して先端が濡れてくるのを見ると、とても恥ずかしく感じる。こうした花を貰う女性の心理は、精神分析学的には、どんなものであろうかと考えてしまう。こんな話を短大の学生の前で話すと、学生たちは私がおかしいと反応し、変わった面白いことを言う先生だと見ているようだった。
昔、イチゴの実を買ってきて、私たちが食べる花托の部分の上に黒く散らばっている種を、爪楊枝で取り出して数日間乾燥させてから、皿にテッシュペーパーを折りたたんで置き、それに水分を含ませて種を蒔いたところ、十日位すると芽が出て、それが大きく育ち、鉢植えにしたら、花が咲いてイチゴの実が出来たと学生に紹介した。寮に住んでいる学生の中に、私が話したようにやってみて、小さい種から芽が出たという報告を受けたものである。
イチゴのブランド品



私の知人に四月頃こんな話をしたら、孫の夏休みの宿題の理科研究にしたいということだった。しかし、種を十粒位採って、テッシュペーパーに水を浸して種を蒔いたが、全然芽が出ないと報告を受けた。その話を詳しく聞くと、水が種を完全に覆ってしまっていたらしく、呼吸できずに発芽できなかったのではないかと思われた。
その報告を聞いた時、知人の心の中に、イチゴの小さな種が発芽する訳がないという予断があるように感じたものである。
私はスーパーで、少し悪くなって安く売っていたイチゴを買ってきて、三個ぐらいのイチゴの表面に点在している種を、爪楊枝で取り出した。よく見ると、種といっても、黒くなっている種もあれば、まだ緑のままの種もあって、同じイチゴの花托上の種でも熟すのに時間差があることが分かった。その種を一週間位乾燥させてから、三枚の皿の上にテッシュペーパーに水を浸して、種が水に埋もれないようにし、テッシュペーパーが乾燥しないように注意しながら、毎日水を足して様子を見たのだった。
種から発芽させたイチゴの苗



イチゴの実は水分が多く、その種を採って乾燥させるのだが、イチゴの花托上の沢山の種から芽が出たという話は聞いたことがない。きっとイチゴの種を乾燥させることが、発芽を促す条件になるのではないかと思われる。寒さを体験させないと芽が出ないかと思って、冷蔵庫に1週間入れてから水に浸してみたが、そうしなくても発芽するから、寒さを経験させることは必要な条件ではなさそうだ。
そうこうするうちに沢山の種の一つから、緑色の芽が少し出てきたものがあった。すぐに全部が発芽するという訳でなかったが、その後に少しずつ発芽するようになった。最後には、八割がたの種が発芽した。こうして発芽したものを、その知人にあげたら、それをプランターに植えたとのことだった。そして花が咲いたと報告を受けた。イチゴが生るのを楽しみにしているような話だった。
頭では種だと認識しているものの、あの小さな黒い粒が発芽することを、なかなか信じることができない。きっとイチゴの場合には、こうして異なるイチゴの花粉をつけて品種改良しているのだろうが、一度新種が出来てしまえば、イチゴはランナーを出すので、それを延ばさせて、根が張ったものを採れば、沢山の同じ品種を得ることができる。
種から育てたイチゴが大きくなった
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イチゴの品種は沢山あって、それぞれの地方で販路拡大のために品種改良が進んできている。ケーキ用には少し酸味があるものが使われ、甘くて美味しいイチゴには各地方のブランド名をつけたものなどが沢山出回るようになった。例えばトチオトメ、サヌキヒメ、濃姫などは生産地がわかる品種である。当然ながら品種改良には多大な努力と時間がかかるが、新品種が販売されると、その品種を守る努力も必要となる時代になってきた。知的財産権の問題である。
韓国の「雪香(ソルヒャン)」というイチゴは、日本の「章姫」と「レッドパール」を掛け合わせた品種だといわれているが、その元の「章姫」と「レッドパール」は日本に知的財産権がある品種だったものを、合法的でない経路を経て韓国で生産され、それを使って新しいイチゴ「雪香(ソルヒャン)」を作ったといわれている。しかもこの「雪香(ソルヒャン)」が世界中で売れていて、日本産のイチゴの売れ行きを妨げていると聞いたことがある。こんなイチゴを巡る国際間の問題も生じているのである。
二年前に新型コロナ禍が下火になったので、久し振りに天童に出かけた。その滞在期間中に、友人の家族と一緒に、宮城県名取市高館にある「ラ・フレーズ」というイチゴ園のイチゴ狩りに連れて行って貰った。イチゴ狩りは初めての体験だった。
大きな農業ハウスに入ると、入り口で入園料を払う。小学三年生以上は千八百円、四歳から小学二年生までが九百円、七十歳以上が九百円となっていた。いちご狩りの時間は三十分だということだった。とにかく沢山早く食べることが要求される事態である。入り口にはイチゴの種類と、植えられている鉢の列の番号が記されていた。小さい紙布きんとコンデンスミルクが入った小さな容器を渡された。容器の他の部分には食べた後の茎などを入れる部分もあった。
イチゴの種類は「トチオトメ、紅ホッペ、章姫、ヤヨイヒメ、モウイッコ、ニコニコベリー」になっていた。広い農業ハウスに、種類ごとに大きな区画にまとまっている訳ではなく、やよいひめも何か所に分散して植えられていた。高い鉢から下にぶら下がっている花茎の、なるべく赤いイチゴをいくつも頬張りながら、写真を撮り続けた。
イチゴ狩りの花とイチゴ



種類別にイチゴを食べてみたものの、種類別にイチゴを味わった経験がないので、どれも同じような味にしか思えなかったのだった。でもその中で「モウイッコ」は甘さと酸味があるとイチゴだなぁと感じることができたように思う。
ハウス内ではハチが飛んで受粉していた。見た瞬間マルハナバチかと思ったが、胸から腹にかけて黒く、用紙にはクロマルハナバチと書いてあった。他にも黒くないマルハナバチも飛んでいた。通路には台に乗った箱が置いてあり、その上に毛布が掛けられていた。その箱が何だろうと思いながら通り過ぎたのだが、友人がハチの巣箱だと教えてくれたのである。反対側からみると、確かに巣箱の入り口があったのである。私は後ろから見ていたので分からなかったのだった。そんなことをしているうちに、すぐに三十分を過ぎていちご狩りは終わってしまったのである。もっとじっくり食べたり、観察したかったなぁというのが実感だった。出口はガラス戸が二か所になっていて、クロマルハナバチが外に逃げ出さないようになっていた。
ハウス内のクロマルハナバチの巣



なぜか食べ放題というキャッチフレーズに惑わされて、腹いっぱい食べることができるだろうと思っていたのだが、品種を確認しながら食べようとすると、三十分の時間制限はかなり過酷な条件だよなぁと思ってしまったのだった。
(バラ科 オランダイチゴ属)
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