干しガキ(柿)は天童に住んでいた頃、近くの家々の軒先に吊るされていたものだった。かなりの数吊るしている民家もあり、その吊るす作業を毎年やっていた。天童周辺を歩くと、カキの木が沢山あり、実はそのまま放ってあるところも多く、鳥たちにとっては冬を越すための食料としての意義があるのである。外部から来たものからすると、とても勿体ないと思うのだが、木からカキを採る作業が大変なのと、農家の人たちの高齢化に伴って、その作業まで手が回らないことも関係があるのだろう。
ある時自分でもやってみようと思い、びっくり市でカキを買ってきて何とか吊るしてベランダに吊るしたことがあった。干し柿にするには、実の元の枝をT字型に切り取っておかないと紐を繋げない。買ってきたカキはそうなっていなかったものの、皮を剥いてから何とかヘタの部分を使って吊り下げたものだった。
カキの実がなる
一月から二月にかけて雪が降ると、雪で覆われた地面しかなくなり、カキの実は鳥たちにとっての命綱になる。それが近くにない時にはヒヨドリたちが、庭にぶら下げられた干しガキを食べに来てしまう。近くの民家のベランダに吊るされた干しガキにはネットをかけられていたことがあった。ヒヨドリ除けである。私の吊るしていた干しガキは十個程だったが、殆どはヒヨドリの被害にあって食べられてしまった。
干しガキはただ吊るしておくだけでなく、時々はそれを揉んで柔らかくしながら干しガキにしていく作業が必要らしい。何もせず放っておいたものを途中で齧ってみたが、余り美味しくはできていなかったのは、その手作業がかけていたからだろう。
カキの花
山形県では上山の干し柿が有名で、沢山吊るしている光景をテレビニュースなので放映していることもあった。また上山駅にも吊るしていたと新聞などで見かけたこともある。どうも干し柿が有名なところのようだ。
「山形県上山市紅干し柿」には「『紅柿』は山形県上山市原産です。日本でも一、二とも言われる渋さをもつ渋柿であり、干し柿にすると濃厚な甘さに。繊維が細かく、とろけるような極上の干し柿として知られています。干し柿として作られるようになってから300年以上の歴史を誇り、蔵王連峰から吹き付ける蔵王おろしと呼ばれる冷たい風と、上山市を照らす冬の日差しが作り上げた『紅柿』。特に寒暖差が大きい山形の風土が、濃厚な甘い「和スイーツ」に作り上げています。」と記されている。この地方で採れる紅柿を使って、独特の干し柿が作られているのだ。
蟹江に戻ってから、スーパーなどで干し柿を見かけるが、割りと小粒の干し柿である。その名前も市田柿と書かれている。そこでどんな干し柿の種類があるか調べてみた。
「産直プライム」によれば、
- 市田柿(いちだがき):長野県で作られている干し柿です。小振りなサイズでパクパク食べられるので、女性や子どもにもおすすめ。モチモチとした食感と上品な甘さがあり、ダイエット中のお菓子にもピッタリでしょう。
- 祇園坊(ぎおんぼう):主に広島県で作られている干し柿です。肉質があり、噛みごたえがある一方、口に入れた瞬間とろっとした食感があるのが特徴です。上品な甘さと風味があるのも魅力の一つです。
- 平核無(ひらたねなし):主に和歌山県で作られている干し柿です。四角の形をした干し柿でサイズが大きいので、食べ応えがあります。食感やアジが異なる、あんぽ柿やころ柿などが作られます。
- 堂上蜂屋(どうじょうはちや):幕府の献上品にもなった高級品種の干し柿です。ずっしりとした重さがあり、見た目も大きいので贈答品にもおすすめです。(岐阜県)
- 愛宕柿(あたご):他の干し柿に比べてさっぱりとした甘さがあるのが特塗油です。くどさがないんで、爽やかな味わいの干し柿を食べたいならこの品種がピッタリです。日持ちもするので、じっくり食べたい人にもおすすめです。(愛媛県)
こうしてそれぞれの地方で、渋柿を甘くなるように干し柿にして作ってきた歴史があることがわかる。
そんな干し柿について考えていた時に、知人から和歌山県産のアンポ柿が送られてきた。その当時は単なる干し柿の一種だと思っていたが違うらしいのだった。箱の中の口上書には次のことが書かれていました。
富有柿
「『和歌山のあんぽ柿』は、日本有数の柿産地、和歌山県の農家が心をこめて作ったたねなし柿(渋柿)を添加物や保存料などを一切使用せず、ひとつひとつ丁寧に皮をむき、風味豊かに仕上げた一品です。あんぽ柿は外はもっちり中はとろりととろけ、渋柿とは思えない上品な甘みが楽しめることから 和菓子の原点ともいわれています。特に大粒のものを選びました。お手先に届きましたら冷蔵庫または冷凍庫で保管してください。冷凍庫の場合は、半解凍状態でお召し上がりいただくと、シャーベット感覚でお楽しみ戴けます。解凍後はお早めにお召し上がりください。 ※あんぽ柿の表面の白い粉は、カキの糖分の結晶です。 ※柿は「ごま」(=タンニン)が多いほど甘くコクがありおいしいといわれますが、あんぽ柿の表面に時々見られる黒い斑点も同様のものです。品質には問題ございませんので安心してお召し上がりください。」と記されている。平核無(ひらたねなし)を使ったアンポ柿らしい。
そこでアンポ柿の県別の生産量を調べようとしたのだが見つけられなかった。地域別では福島県、山梨県、新潟県など産地として散見されたが、生産量の統計は載っていなかった。ましてや和歌山県が名産地ではなさそうに思われたのだった。
あんぽ柿
ウイキペディアには「あんぽ柿は、渋柿を硫黄で燻蒸した干し柿である。ドライフルーツの一種。福島県伊達市梁川町五十沢で大正年間に開発された。渋柿を硫黄で燻蒸して乾燥させる独特の製法で作られる。~中略~ あんぽ柿は、半分生のようなジューシーな感触で、羊羹のような柔らかいのが特徴。硫黄は乾燥中に揮発するため毒性はない。カリウム、ビタミンなどの栄養素を豊富に含んでいる。原料は主に、蜂屋柿(はちやがき)や平核無(ひらたねなし)などの渋柿を使用する。蜂屋柿は大粒で柔らかく、平核無は小粒で甘味が強いのが特徴である。~中略~ JA全農福島が扱ったあんぽ柿は2010年度で1231トン。~中略~ あんぽ柿のおかげで、東北地方の他の地方の農村と比べると、生産地の伊達市・伊達郡などでは冬期に都会に出て土木作業に携わる出稼ぎ労働者は少ない。」と記されている。
アンポ柿は福島県伊達市が生産の中心らしい。山形の啓翁桜と同じに冬の出稼ぎをなくす原因ともなったようである。
桑名の妹が来た時に、そのアンポガキを何個かあげた。この近辺の人がアンポガキなど知っているとは思えなかったが、関西にいたこともあって高価な菓子で簡単には手に入らないというように話してくれたのだった。それを知って私の方が驚いてしまった。
カキを甘くするには、干し柿にする、リンゴやドライアイスを使う、アルコールにつけるなどの方法があるが、私の知人はヘタを焼酎につけてビニール袋に入れて、東京の弟さんに送っていたと話していた。アルコールがアセトアルデヒドに変わり、それが渋カキのタンニンにくっつくとタンニンが不溶化して渋みを感じなくなるのである。
今年になってまたアンポガキを手に入れたのだが、それも紀州のアンポガキだった。その袋には「紀州自然果 あんぽ柿 和歌山特産のひらたねなし柿を、甘くてフルーティーな干し柿にいたしました。」とあり、「本品紀州自然果“あんぽ柿”は表面にゴマ状の塊がある場合がありますが、柿の成分であるタンニンの凝固した物です。また、柿表面に白い粉が出る場合がありますが、柿自体の糖類が結晶化したもので品質上問題ありません。紀州自然果ですので、お買い上げ後なるべくお早めにお召し上がりください。」と、以前のアンポガキと同じことが記されていた。
全国発送していると思われるので、紀州のアンポガキは、もしかすると有名なのかも知れないと思うようになっている。
(カキノキ科 カキノキ属)
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