キジバト

カワラバト(ドバト)は蟹江周辺では多く、東名阪自動車道の高架橋や善太川の新大井橋の下に巣を作って群れで行動している。多い時には数十羽のハトが刈取りの終わった田んぼや畑に降り立って、採餌している姿を見かける。このハトたちを品種改良して伝書鳩にしたと言われている。これらのカワラバトはいつも集団で行動し電線に並んで止まっている。人が近づくと逃げるには逃げるが逃走距離(近づくと逃げ出す距離)はそれ程長くはない。もともと人のいる近くで生活する習性だからだろうか。

キジバト その1

 最近になってそのカワラバトとは違ったキジバトが気になりだした。今までもその存在は知っていたが山沿いや人家の少ない樹木にいるハトとばかり思っていた。キジバトが気になりだしたきっかけは、そのハトの羽がキジのメスの羽と同じ色合いなのに加えて首にブルーの縞模様があることを知ってからである。その縞模様はとても美しくキジバトかどうかを首のブルーの模様で確かめるようになった。

 キジバトというと何故か舟木一夫の歌の歌詞を思い出す。その歌「絶唱(西條八十詩 市川昭介作曲)」の歌詞にはキジバトを謳っている部分がある。キジバトをヤマバトと歌っているが何故かずーっと覚えている。その歌詞とは「愛おしい 山鳩は 山こえて どこの空 名さえはかない 淡雪の娘よ なぜ死んだ ああ小雪」というもので、キジバトが清楚な風情を感じさせる象徴的な表現なのだろう。

 ところで何十年振りかに戻った実家は、関西線蟹江駅の北側にある五〇〇軒程の団地の中にある。団地としては古く道路幅も狭い。町が誘致した団地としては初期のもので、子育てが終わり子どもたちが団地から外に出て行ってしまった結果、住人の多くは高齢者で平均年齢は六五歳を越えていると聞いている。

そんな団地の朝にクークーという鳴き声が聞こえてくる。毎日同じように鳴いているから、この団地にハトが住んでいるのだと思うようになった。団地内の電線に止まっているハトを見たらそれはキジバトだった。こんな団地の中にもキジバトがいるのかと吃驚した。

日光川河口の土手を歩いていると土手脇の大きな木やヨシ原に生えている木々にハトが止まっている。それら全てはキジバトである。一羽の時もあるが七~八羽の集団の場合もある。私が土手を歩きながら離れた距離から木に止まっているキジバトの写真を撮ろうとすると、その前に飛び立ってしまう。カワラバトに較べると用心深く逃走距離は長い感じである。キジバトが住んでいる場所ではカワラバトは見かけない。住んでいる環境が違うのではなかろうか。カワラバトは人の生活圏近くに住んでいて、何十羽の集団で刈り入れの終わった田んぼや畑で採餌しているが、キジバトは畑に降りることがあってもせいぜい数羽でしか行動していない。家屋の少ない自然環境が残されている場所でキジバトを見かけている気がしている。

 カワラバト

なぜ団地内にキジバトがいるのだろうか。この団地内ではカワラバトを見たことはない。もし棲み分けしているとするとキジバトにとって住みやすい条件がどこかにあるのだろう。団地の中で見かける鳥といえば他にスズメ、ヒヨドリとムクドリ位である。

六月を過ぎてキジバトが自宅の二階の電線の引き込み口に巣を造ろうとした。そんなことは気がつかずに、玄関先に藁くずが落ちているなあと思ったものの、風が吹いて飛んできたのだろうと思い込んでいた。ところが連日そうした藁くずや木切れが落ちている。向かいの奥さんが「ハトがお宅に巣をかけようとしている。」と教えてくれた。よく見るとキジバトだった。電線の引き込み口に藁くずや木切れを運んでいた。そこで下から野菜作りの枠用の竹を振って驚かせようとしたが、意に関せずキジバトはじっとしていた。そこでホースで水をかけたが上手く届かない。水をかけても逃げないでいる。仕方なく竹を二本繋いで脚立に乗ってその巣造りしている藁くずや木切れを落とした。

 仲が良い番いのキジバト

 そうしたら二羽のキジバトは飛んで行って近くの電線に止まった。これで巣造りは諦めただろうと思ったら、翌日にまた巣造りのための材料を運んでいた。一羽のキジバトがじっとその場所に留まっていた。私はまた脚立に上がって繋いだ竹でその材料を落とした。そして竹を振り回したらそのキジバトは飛んで行ってしまった。そうしたことを何回も繰り返した。キジバトは番いに違いないが、この場所で巣造りをしようと決めたからには、どうしても作りたかったのかもしれない。お互い根気比べの闘いだった。結局は巣造りを諦めたようだった。巣造りさせてヒナが孵ったところを見たい気持ちもあった。団地生活ではこうした巣造りをさせると近所迷惑になるから、少し残念な気持ちもあったが造らせなかったのである。

 キジバト その2

 「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉 上田秀雄 山と渓谷社)のキジバトの項目によると、「環境は、市街地から山地の開けた場所など。行動は、一年を通じてつがいで生活するものが多いが、特に冬期は繁殖していない個体は群れになる。樹木の実や芽、さまざまな草の種子を食べ、ときには動物質のものも食べる。繁殖期には少し高く舞い上がって滑翔する、求愛飛行を行う。繁殖するのは春から夏が多いが、その他の季節でも繁殖する。」と記されている。

 家の電気の引き込み線に巣を造ろうとしたのは夏に入る時期だった。それもいつも二羽だったから番いだったのだろう。最後は諦めて他に移動していった。団地の他の場所で営巣したのかも知れない。別の資料を見ていたらキジバトは狩猟してよいが、カワラバトは狩猟できないと記されていた。自然で生きるハトだから本来は同じ扱いをするのが当然だと思うが何故なのだろう。知りたいものである。(ハト目 ハト科 キジバト属 キジバト)

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