小さい頃からルリタテハは知っていた。庄内川の堤防沿いの草叢を歩いていて見かけたと思う。ルリタテハはモンシロチョウ、アゲハチョウのように翅の縁(ふち)が綺麗に流れていないで、切れ切れでギザギザになっていることと、表の翅が瑠璃色なので印象深く覚えている。
ルリタテハ
大半のチョウはモンシロチョウやアゲハチョウのように翅の形態は少し違うものの、翅の縁が流れていく感じは同じである。その仲間にはモンキチョウ等のシロチョウ科やキアゲハ、ジャコウアゲハ、カラスアゲハ等のアゲハチョウ科も同じような翅の造りになっている。見かけていたチョウの殆どがそんな翅の形をしていたので、チョウといえば無意識にモンシロチョウやアゲハチョウを典型とするイメージを作り上げてしまっていた。
今度は逆にルリタテハがタテハチョウ科だから野原を歩き回っていてギザギザの翅のチョウを見ると、馬鹿の一つ覚えでタテハチョウ科だと思い込むようになっていた。
ルリタテハの占有行動 その1
タテハチョウ科の仲間を調べてみたら、ルリタテハのような翅がギザギザしたものにはテングチョウやアカタテハがある。しかしアサギマダラ、ヒョウモンチョウ、イチモンジチョウの仲間はタテハチョウ科でありながら、翅の縁が殆どギザギザには見えない仲間である。私の馬鹿の一つ覚えが誤っているのだろうか。現時点ではどんな特徴があればタテハチョウの仲間と言えるのか分かっていない。私のタテハチョウのイメージは偏った間違った認識なのだろうか。
ルリタテハで覚えているのは、その表の模様が薄い瑠璃色の地に、青白い線が翅に沿ってあることである。模様のデザインとしてはシンプルなのではないかと思う。その逆に裏模様はこげ茶色で目立たない。その表と裏の模様のギャップを小さい時に印象深く記憶していたのではないかと思う。
蟹江に戻ってからはルリタテハを一度も見ていない。天童周辺で見かけたのは山元沼の脇道を入った農家の納屋の前の木材の上で、ルリタテハを見かけた。晩秋の十一月頃だった。私のイメージではルリタテハは小さい頃から秋になって見かけるチョウだと思っていたし、実際に見かけたルリタテハは時期的には私の記憶と違っていなかった。
翌年の四月に山形市の紅花トンネル脇の農道を奥まで入っていったら、その道路上にルリタテハが止まっていた。翅を広げて日向ぼっこをしていた。山元沼のルリタテハも日当たりの良い場所で翅を広げていた。これらは変温動物なので太陽の陽射しが当たらないと活動できないのだろう。春のこの時期にルリタテハを見かけたことに吃驚した。私自身はルリタテハは秋口に見られるチョウだとずーっと思い込んでいたからだった。
ルリタテハの占有行動 その2
「日本のチョウ」(日本チョウ類保全協会編 誠文堂新光社)のルリタテハの項目には「中型のチョウで、表は外中央部に青色の帯があり、全体もわずかに瑠璃色を帯びる。裏には褐色を基調とした模様があり、夏型は明るく、秋型では黒みが強い。近似種はおらず、他種との識別は容易。成虫は年二回~三回(寒冷地一~二回 暖地三回~周年)食草はサルトリイバラ、ホトトギス、オニユリ、ヤマユリ、サツマサンキライ(ユリ科)。生育環境は、平地~山地の森林や林縁。雑木林などの明るい場所に見られるほか、ホトトギスの植栽によって都市部の公園や人家などの小規模な樹林の周辺にも見られる。行動は、日中、敏速に飛翔し、クヌギやコナラなどの樹液や腐果などに好んで集まる。越冬後はアセビ、キブシなどの花を訪れる。オスは森林内の空間などで占有行動をとる。生育状況・保全は、開発による森林の消失によって減少しているものの、都市部でも比較的よく残っており、かなり普通に見られる。」と記されている。
これらを見ると年に数回は成虫になることから、山形周辺でも春先と秋口に見られても別に不思議なことではない。私が小さい頃から見知っていたと思い込んでいたルリタテハは名古屋周辺では幼虫の食草は殆どないのではないかと思う。食草の一つである園芸植物のホトトギスが、あちこちの庭に植えられていた記憶もない。それに対して天童や山形周辺ではそこら中で見られ、ルリタテハの食草は私にとっては馴染み深い植物たちである。成虫が集まるクヌギやコナラもそこら中にある。
そんなことを考えているうちにいつ頃からルリタテハを知るようになったのか疑問に思うようになった。考え直してみたら仙台の大学に入り、その後仙台で生活し仙台周辺の野山を歩き回っていた時に見かけたのが最初だったのかも知れない。長く古い記憶なので定かでなくなり、小さい頃から知っていると思い込むような心理的作用が働いたのかも知れない。
今でもルリタテハに出会うと現実の記憶だと思い込んだ昔の自分を思い返す機会となり、若い頃野山を歩き回っていた頃の情景が写真のように浮かんでくるから不思議である。
(チョウ目 タテハチョウ科 ルリタテハ属 ルリタテハ)
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