ヨツボシトンボ

動物編

ヨツボシトンボとの出会いは数年前からのことである。それまでの人生の中で見かけたこともなく出会ったこともなかった。山元沼と原崎沼は私が土曜日と日曜日に出かける定点観測地である。同じ場所に何度も出かけていると大きな変化はないものの、いつもはいない植物や動物に出会うことがある。同じ場所でもだんだんと季節が変わってくるので植物であれ動物であれ少しずつ変化していく。

ヨツボシトンボ

 原崎沼の南に「網張の里」という草叢がある。そこの中央に小川が入り込む小さな池がある。丘陵の方から小川が流れてきて草叢の小さな池に水が溜まっている。この水は四季を通じて枯れることはなく冬の寒さでも凍っているのを見たことがない。少しずつ小川の水が供給されてくるので池の水位はいつも同じで、同じ条件が保たれている。そこには天童メダカだと信じていた黒メダカがいたが、その後赤や白いメダカが見られるようになったので誰かが放流しているのかもしれない。他にはミズカマキリやマツモムシなどが泳いでいるのを時々見かける。大きなフナやナマズが住んでいるとは思えないほどの小さな池である。

 池の上を飛ぶ連結態など

 春の終わりから夏にかけてコサナエ、シオカラトンボ、キイトトンボやその他のイトトンボ等を見ることができる。そんな「網張の里」を六月にいつも通りにカメラを持って歩いていたら、見たことがないトンボを見かけた。一瞬見た時はハラビロトンボではないかと思ったがどうも雰囲気が違う。そして見ていると四枚の翅の真中に、黒い斑点がある。トンボの多くは各翅の先の少し下に黒い縁紋(ミヤマアカネの成熟したトンボは赤色)がある。しかしそのトンボはその翅先より下の真中辺りにも黒い紋が付いている。こんなトンボは見たことがなかった。またトンボの尻尾は割りと太く短い印象である。

私は直観的にベッコウトンボではないかと思った。こんな所でベッコウトンボに会えるなんて夢のようだと思った。後で調べてみたらベッコウトンボではなかった。ベッコウトンボは山形県では生息しておらず、静岡県の浜松周辺や九州地域にだけ生息している稀少なトンボだった。原崎沼で見かけたトンボは何トンボかと調べてみたら、ヨツボシトンボのようだった。私は数年に亘ってこの原崎沼の遊歩道を土曜日と日曜日に出かけており、殆ど一年中歩き回っているといって良い程である。それでもヨツボシトンボには出会っていなかった。五月を過ぎるとサナエトンボの仲間を見かけるようになる。割と体が細いコサナエだと思うトンボは見かけていた。またダビドサナエではないかと思うトンボとも出会っていた。しかしヨツボシトンボには出会っていなかったのである。

 数年前の六月には何匹かのヨツボシトンボが池の周りを飛び回っていた。池の周りの枯れた竹の先や付近の笹の先にも止まっていた。止まっているヨツボシトンボの写真を撮ろうと思ってもピントが合わずにぼやけてしまった。池の周りにいるヨツボシトンボたちはとても忙しく他のオスが近くに来ると追い回し、メスがくると連結しようと迫って忙しく飛んでいる。飛んでいたり連結しているトンボの写真を撮ろうとしても全てぼやけてしまう。止まるとすぐ飛び立つし他のヨツボシトンボを追いかけ回すはで、写真を撮る方も途方に暮れてしまう感じだった。

 このトンボが何匹もこの池の周りにいるのはこの池で産卵して子孫を残しているのだろう。今まで色々なトンボの写真を撮ってきたが、こんなに忙しいトンボは初めてだった。私がヨツボシトンボの習性を知らないことが原因かもしれない。

 翌年の六月になってヨツボシトンボがいるのではないかと思って原崎沼の「網張の里」に行ってみた。すると予想通りそこには何匹ものヨツボシトンボが飛んでいた。これまでのカメラが壊れて新しいカメラに替えていたので、それで何枚かの写真を撮った。それでもピントが合わずにぼやけているものが多かった。それでも数枚は綺麗な写真を撮ることができた。私のカメラ技術だと一〇枚以上撮って一枚良いものがあるかどうかの割合である。何十枚かの写真を撮った。いつも野草でも小動物でも一期一会と思って撮っている。この機会をはずすと同じ状態のものは撮れないことを経験的に知るようになっていたからである。

 この六月に出会ったヨツボシトンボは、相変わらず落ち着きがなく右往左往した飛び方をしている。メスが来ると飛び立って迫っているし、オスが来ると追いかけて池から離れてくんずほぐれつしている。このヨツボシトンボをこの池で見られるのは、三週間程である。最後の時期になると、トンボの翅がボロボロになっているのが普通である。

こうした行動や姿を見るときっと子孫を残す営みの故だろうなとつくづく思う。生きている間に自分の子孫を繋ぐために命がけでメスと交尾して産卵させることがオスにとっては最大の使命なのだ。しかも時間はそう長くはない。せいぜい三週間なのである。

 メスが来るのを待つオス

 こうしたヨツボシトンボの行動を見ると、人間ぐらい能天気な生き方をしている動物はいないのではないかといつも思ってしまう。

 「日本のトンボ」(尾園暁 川島逸郎 二橋亮 文一総合出版)もヨツボシトンボの項目には「生育環境は平地~山地にかけての抽水植物の繁茂する池沼、湿地、放棄水田。生活史は卵期間一~二週間程度、幼虫期間一~二年程度(一~二年一世代)。幼虫で越冬する。形態はオスとメスともに黄褐色のがっしりした体型の中型のトンボで、翅に黒い小さな斑紋がある。翅の亜結節部と縁紋付近に黒褐色斑が発達した個体もみられ、プラエヌビラ型と呼ばれる。成熟したオスは抽水植物に止まって縄張り占有し、頻繁に飛び立ってホバリングを交えた巡回飛翔を行う。メスを見つけたオスはただちに連結し、空中で交尾態となる。交尾は終始飛びながら行われ、数秒から十数秒で終わる。交尾後のメスは単独で打水産卵し、オスは付近で警護する。備考では北海道~鹿児島県に広く分布するが関東地方など減少している地域もある。」と記されている。

 蟹江周辺ではこれまでヨツボシトンボを見かけたことはない。この近辺のどこかにいれば良いなと思う。また体形ががっちりしたトンボというのは一度見たことがあれば納得できる特徴と言える。ショウジョウトンボ、チョウトンボ、ギンヤンマやウチワヤンマ等と同じ生育環境だが、成虫の発生時期が異なっていて重なっていないのだろう。早い時期から歩き回ってみようと考えている。(トンボ目 トンボ科 ヨツボシトンボ属 ヨツボシトンボ)

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