メダカ その2

動物編

 六月中旬が産卵の最盛期で毎日採卵しているが毎日五〇粒位採取できる。それをタッパーやバケツに分けておくと一〇日位で孵化する。それに稚魚用の餌をやっている。孵化するまでの期間は水温と関係があり、春先だと三週間位経たないと孵化しないのに、この季節だと一〇日位で孵化している。

飼っている野生メダカ

 夏の陽射しが強くなるとアパートの西側にある二階の外廊下は午後から湯に近い水温になり、よく生きているなと感心する位である。そうすると、さすがに産卵数も減ってきて夏バテ状態になる。

 こんな産卵時期には学校に持って行って欲しい学生にあげたりした。しかし余り若い人は関心がないらしく、貰ってくれる学生の数は多くはない。私からするとイヌやネコのペットとは違い、自然に生きている生物に寄り添いながら、その生態観察するのはとても良い勉強になると思うが、こうした楽しみを感じる感性を持ち合わせない人が多い。勤務していた短大は幼児教育科が幼稚園教諭と保育士の資格、専攻科が高齢者の介護福祉士資格を取得するための課程で、幼児や高齢者等人間に関心がある学生が多く、自然の動植物にはなかなか関心を持ってもらえない。幼児たちに自然探検させることは、彼らの将来の動植物とのつきあい方の基礎を学ばせるのに大事だと思うのだが、こうしたことには余り興味がなく、子ども達の遊びやその指導の仕方にだけ注意が向いている。

 私がメダカを飼っている理由は小さい時からの趣味が発端だったが、田んぼと関わりを持ちながら生きていくメダカの生き様に興味を持つようになったことと、その環境が変わって生息数や生息場所が少なくなっていることが関係している。メダカはレッドデータブックの絶滅危惧種Ⅱ類に登録されている。山形県ではまだメダカの生息場所が結構あるようだが直接出向いて採取したことはない。天童でも「天童メダカ」といわれるメダカがいるようで、冬には雪が深く凍りつくような寒い環境の中で、生き残るとすれば大きな沼のような表面が凍結しても、底の水が凍らない場所でなければならない。そうだとすれば山元沼や原崎沼は該当するのではなかろうか。

 海津の用水路で見かけたメダカ

このような事情から私は野生のメダカを増やして、いつか田んぼの環境が戻れば、メダカを戻してやりたいと考えている。だから流行りのメダカ、例えば夜光るメダカ、白メダカ、青メダカ、楊貴妃といわれる橙色が濃いメダカには全く興味はない。

 環太平洋パートナーシップ協定に絡む国の政策で、稲作地を広くして大型機械による大型農業を行う米生産の効率化が叫ばれている。その結果、用水路をコンクリートの側溝にしたお陰で動植物は生きられなくなっている。これからの日本の稲作農業を考える時、動植物を含む生態系の問題でもあるのだから、それらを破壊して生態系を単純化していくことのしっぺ返しが怖くなる。私のように野生のメダカを育てて、いつの日か田んぼに戻そうというのは、もはや幻想に近いかも知れない。そうした状況でありながらメダカを飼う色々な条件について学習するのは楽しい作業である。

 この時期は上述通り産卵数が多いので、知り合いの友人に卵を送ろうとした。稚魚になったものを送ると郵送の過程で死んでしまう可能性がある。それよりは卵を送った方が安全だと考えた。そこで卵を三〇~五〇粒位をポリエチレン袋に少しだけの水と酸素補給用の水草(アナカリス)を入れ、口を縛った。もしかして水漏れすると困るので、ポリエチレン袋を三重にして普通郵便用の茶封筒にして送ることにした。出来る限り水の量を少なくしたがそれにも限界があり、封筒に入れると水が動くため重心が移動して封筒が不安定になった。それを天童から愛知県津島市の友人に送ってみた。普通郵便なので土日を挟むと届くのが二~三日遅れる。出来る限り週初めに送ることにしたが、届いた先ではもう稚魚になっているものがあったとメールがあった。この相手先には三度送ったが、二度目からは少し心配になって中がポリエチレンのクッションがついている封筒にして送った。それで何事もなく送ることが出来た。

  メダカのオスとメス(左)、オス同士(右)

 この話を兄弟が集まった時に話したら、一番下の妹が「そんなことをしては駄目だ。」と言い出した。その妹は桑名のクロネコヤマトにパートで働きに行っており、その配送システムの知識があるからだった。その水が破れて他の品物にかかると、それへの弁償が大変なことになる。だから「それだけは止めて欲しい。」と言われた。

その当時私は鹿児島県日置市の元同僚だった濱田尚吾さんにメダカの卵を送ってみると話していた。山形県から鹿児島県までは遠く卵が死なずに送れるとなれば、日本中どこにでも送ることが可能になることを意味している。だから是非成功させたいと考えていた。妹のその話を聞いて卵を包む仕方は同じにして、それを封筒ではなく小さい段ボールの箱に入れて送ることにした。そうすればお酒の配送と同じだから大丈夫なのではないかという話になった。実際に送ってみると流石(さすが)に二~三日で着く訳はなく、着いたと連絡が来たのが五~六日経ってからだった。やはり途中で孵化してしまった稚魚もあったとメールが来た。でもこんな遠方でも卵を送ることができることが分かって、自分の中の知識が増えたように感じている。

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