数年前の冬に蟹江に帰省して新大井橋近くの善太川にカモの写真を撮りに行った。川の水は綺麗でないが沢山のカモが泳いでいた。一年中いるカルガモやカワウに交じってコガモやマガモが含まれていた。その中にカルガモやマガモよりは小さく、コガモよりは大きい白い綺麗なカモが混じっていた。
ミコアイサの群れ
そのカモはカルガモやマガモに比べて警戒心が強く、私が川の土手を歩いて行くとすぐに飛び立ってしまう。写真を撮ろうとしてもなかなか上手く撮れなかった。永和中学校の善太川の方に行ったら、カルガモやオオバンと一緒にその白いカモが泳いでいた。そのカモの隣には、頭が茶色のメスだと思われるカモが数羽寄り添いながら泳いでいた。このカモたちは時々水中に潜り込んでは見えなくなる。前方を見ていると潜り込んだ場所から離れた場所に浮き上がってくる。浮き上がってくるのは必ず前方で後方ではなかった。観察しているとそんなことが分かるようになった。このカモは水中採餌する仲間で魚やエビ等を餌にしているらしい。
善太川は川幅が狭いので写真を撮るには好都合な場所である。撮った白いカモは眼の周りが黒く、頭に短い羽飾りをしている風情だった。写真を見て私は「パンダみたい」と言ってしまった。パンダを最初に見た時に眼の周りが黒く胴体の白と黒のコントラストとその配置が人工的で、自然の動物とはとても思えなかった。本当にこんな動物がいるのかと思ったが、このカモのオスに対しても同じような感想を持った。インターネットで調べてみたらミコアイサというカモだと分かった。その時にはオスが二羽とメスが四羽だった。
ミコアイサが水を蹴って飛び立つ(潜水ガモの特性)
翌年の十一月中旬に善太川の新大井橋に行ったらコガモやマガモが来ていた。去年来たカモかどうかは分からないが、場所を間違えずによく来るものだと感心する。カルガモは定住しているので、冬鳥であるカモにとって、ここは安全だという目印になっているのではなかろうか。
そのカモたちの中に頭が茶色の小形のカモが混じっていた。その数は三~四羽だが善太川の南側の土手を歩いていると、私から反対方向に泳ごうと方向をいつも変えている。危険を察して、飛ぼうか飛ぶまいか逡巡している様子が見られる。それでも結局は飛び立ってしまう。カルガモたちはそんな状況でも泳いだままでいる場合が殆どである。
そのカモはどれも頭の天辺が茶色で顔が白っぽいので、遠くからでもマガモやカルガモと区別できる。前年に帰省した時に撮ったミコアイサの写真と較べてみた。ミコアイサのオスと並んでいるメスと雰囲気がとても似ているので、ミコアイサのメスではないかと検討をつけた。このミコアイサは全てメスだとするとオスはどうしたんだろう。メスだけが先に善太川に来てオスは後から来るのだろうか。ミコアイサのオスとメスは基本的に別行動するのだろうか。
羽を痛めたミコアイサ
ミコアイサのメスと思われるカモは水中に潜ったりしながら行動を共にしていた。その群れとは別行動をしている一羽のミコアイサがいた。そのミコアイサは他のミコアイサのメスと違って羽が群れのミコアイサよりはやや白く、頭の天辺の茶色がまだらになっていた。メスのミコアイサの様子とはちょっと違っていた。単に別行動しているのか何故羽の色がより白っぽいのかと不思議に思った。
そのミコアイサはオスの夏羽が冬羽に変わる途中のものかも知れないと考えた。カルガモやオオバンは一年中同じ羽の色だが、高山に住むライチョウは季節に合わせて夏羽から冬羽に変わる。カモも同様ではないかと思ったのである。また幼鳥が成鳥になる過程でも羽の色を変えている。インターネットを見たら、夏羽から冬羽に大きく変わるのは主にオスで、その色合いはメスに対するアピールのためのものらしい。それを生殖羽と呼んでいる。オスが生殖羽になる前の地味な非生殖羽の状態をエクリプスということも分かった。
善太川の頭が茶色で羽の色がより白っぽくてメスに見えるミコアイサが、オスの真っ白なミコアイサになるかどうか確かめたいと思った。何度もそこへ出かけてそのカモを見ていたら、だんだんと生殖羽に変化してきた。そうだとするとオスとメスが別行動するという考え方は間違いで、メスだと考えていたミコアイサの中に生殖羽になる前のオスが含まれていた可能性がある。本当にそうなるかを今後も楽しみにしている。
ミコアイサの飛翔
ミコアイサについては「大きさは全長三八~四四センチ。翼開長五六~六九センチ。特徴はカワアイサやウミアイサよりは小型で全体に短い体型。嘴は短く灰色。中、小雨覆の白色部が大きな楕円形のパッチを形成し、飛翔時に目立つ。分布・生育環境・習性は、ユーラシア大陸北部で広く繁殖し、日本には冬鳥として湖沼、河川、堀など淡水域に冬鳥として飛来する他、北海道北部で少数が繁殖。翼を開かずに潜水して魚類や甲殻類、水生昆虫などを捕るが、植物質のものも摂ることがあり、時には人が与えるパンに餌付くこともある。オスは額の羽毛を逆立てて、頭を後ろに引く、水面上で体を立てて伸びあがる、といった求愛ディスプレーを行う。オスの生殖羽はほぼ全身白色で眼の周囲と上背などが黒く、パンダに例えられる独特の配色で、他に見間違うような種はいない。繁殖地はユーラシア大陸とカムチャッカ半島で、越冬地として日本や中国沿岸部となっている。」と記されている。
ミコアイサがいつ頃善太川に来るかだが、最初に見かけたのは十月末だった。早い時期に来るんだなと思った。善太川の他に日光川のウオーターパークの沼でも一〇羽前後見かけていたが、三月初旬にはいなくなった。コガモが五月の連休明けまでいるのに較べると、オナガガモと同様に早めに北帰行するようである。
四月初旬に善太川の土手をカワセミがいないかと探しながら歩いていたら、川の中のヨシが生えている場所に白っぽいカモがいた。その傍にはマガモもいた。マガモたちも既に帰って他には見かけなくなっていた。このマガモは昨年もカルガモと行動を共にしていた。多分羽を傷つけて飛べないのではなかろうか。そのために善太川で一年中過ごしているのだろう。このマガモは数年前からこの状態である。越冬で来たマガモたちの群れには入らずに、いつも一羽だけカルガモの群れと行動を共にしていた。
この白いカモもミコアイサのオスだった。このミコアイサも多分羽を傷つけて飛べないのではなかろうか。そんな同じ境遇のマガモとミコアイサのオス同士が、同じ場所で夏を過ごすことになるのではないかと思う。
同じことをハクチョウでも聞いたことがある。福島県の浜通りの沼では、羽を傷つけて飛べなくなったハクチョウが夏を一羽だけで過ごしていた。ハクチョウは家族の絆が強い鳥だと言われている。北に帰ったハクチョウの家族が秋にこの沼に帰ってくると、そのハクチョウとお互いの存在を確認し合うと監視員の人から聞いたことがある。
このミコアイサのオスも同様なことになれば良いのだがと心配している。メスに対してはこの生殖羽がアピールになるが、ハヤブサやオオタカにとっては獲物という点で目立ちやすい。早くエクリプスの羽に変わることを祈っている。(カモ目 カモ科 アイサ属 ミコアイサ)
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