リンゴ

10月を過ぎて秋が深くなると今年の冬を無事に越せるかと心配になる。歳をとってあの冬の厳しさを考えただけでも、鬱陶しい気持ちになる。

秋に出回るリンゴを知るようになってから、そうした気持ちが少し和らいできた。山形県は、青森、長野、岩手に次いで、全国で4番目のリンゴの生産量があり、これもきっと内陸性の気候によるものではないかと考えている。秋口になると山寺周辺の無人販売で、ブドウやラフランスなどと共にリンゴが販売されている。近くのスーパーで売っているものより安く、形が歪(いびつ)だったり傷があるものの中身は少しも変わらない。たびたび買いに行くが、リンゴにも色々な品種があり、味がそれぞれ違うことが分かってきた。

 サンフジ(リンゴの王様)

始めに出てくるのは「津軽」である。さっぱりした浅い甘みのあるリンゴである。これを食べるとリンゴの季節が到来したぞというサインの様な感じを受ける。次は「昴林(こうりん)」、「千秋(せんしゅう)」「秋映(あきばえ)」などが出てくる。私自身は「昴林」が好きだが、「千秋」も酸味と甘さの加減がありリンゴらしいリンゴだと感じるようになった。ちょっと小玉の「紅玉」も出てくるが酸味があるので余り買ったことはない。アップルパイの材料には適していると言われている。昨年は「出羽ふじ」を初めて買った。これまで見かけなかったから買ったことはない。食べてみると、あっさりした甘いリンゴであった。その他にも、「夕映え」「北斗」などのリンゴがあるが、まだ十分吟味するまでには至っていない。次の楽しみといったところか。

10月の末から11月にかけて「サンふじ」が出てくる。これはリンゴの王様と言われており、確かに美味しいリンゴである。甘さと酸味のバランスが良い。しかしどの「サンふじ」も同じ味かと言うとそうではなく、生産者によって違いがある。私自身は偶然の縁で「サンふじ」を生産者から直接手に入れている。知り合いの人からの依頼も受けて3万円以上も購入する。まるで仲買人のようである。(しかし利益は得ていないが)毎年のことだが、このように酸味と甘みのバランスが良く蜜が入った「サンふじ」を食べるととても幸せな気分になる。この「サンふじ」だが、青森県で国光にデリシャスの花粉をつけて作られたもので、品種として安定するまでには長い時間かかったようである。

  リンゴの花

昔はリンゴというとぱさぱさしたものかスカスカしたものがリンゴだと思っていた。何でリンゴが美味しいんだというようにまで考えていたが、生産地で直接購入して食べるようになって、今までのイメージとはかけ離れていることを実感したのである。

 だから、流通に乗ってスーパーなどに出てくるリンゴは、本場の人間から見ると大衆向けで、美味しいものというよりは売るための商品としてのリンゴのような感じがする。本場でしか分からないような美味しさを満喫できるのも、この山形県に来たお陰だと考えるようになった。

  手をかけないリンゴ畑

 今年になって、また新たなリンゴに出会った。秋の初めは、上述のように「津軽」が最初に出てくるが、同時期に「さんさ」「未希ライフ」という品種が売られていた。これらも軽くて甘い味がするリンゴである。次に来る「千秋」などのリンゴの時期に「清明(せいめい)」という品種が売られていた。また商品名がない「4-23号」(昔のリンゴで生産量が少ないから)という硬くて小玉のリンゴや、他に「ネロ」というリンゴも手に入れた。売っているおばさんの話だと、本当はネロの台木に「サンふじ」を接木していたのだが、それが折れてしまってネロが出来てしまったのだとの話だった。買って食べてみると、デリシャス系のスカスカした味わいで今風のリンゴではなかった。その皮の色は紅くて大きいので、外見上は美味しそうに見えるリンゴである。

 色々なリンゴの種類に出会うので、インターネットで調べてみたら、その品種の多いことは予想以上であった。しかも、その品種改良は東北地方で多くなされており、東北の6県それぞれで品種改良をしている様子が見られた。上述のネロも、紅玉とデリシャスの掛け合わせによるものだと知った。また、「紅月」という種類も今年になって初めて出会ったが、これも皮が紅く紅玉との組み合わせによるものと分かった。どうも紅玉の皮の紅色は、きっと遺伝的に優性なのだろうと予想している。

 こうしたリンゴとの新しい出会いによって、自分の中でこれまで鈍感だった果樹栽培についてとか、植物生理とか、農家の人たちの大変さとかを学べるようになってきたような気がしている。

                             

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