ある時ケリの群れが東名阪自動車道の近くの善太川の上空で乱舞していた。次にその群れが善太川の水面すれすれまで降りて来たと思うと、それぞれが今度は四方八方の上空に散らばっていく。そうした行動をする群れの上空を見ると、猛禽類のタカと思われる鳥が上空を飛んでいて、それを避けるために水面すれすれまで降りて来たようなのである。このタカはトビよりは小さくホバリングしていたので、ハヤブサではないかと思うが同定できなかった。ケリたちはどうして猛禽類の危険を知って逃げるのだろう。大きさではケリの方がやや大きい感じがするのに、逃げるために右往左往している様子を見て不思議な感じがした。
先日NHKで放映された「プラネットアース」で、ニューヨークのビルの谷間にハヤブサが一六番い(つがい)住みついて、都市のハト(カワラバト)を狩っている様子を放映していた。それによると群れから離れた一羽のハトを川の水面低くまで追い詰めて、それを捕らえる場面を映し出していた。善太川のケリの群れは逃れるために水面すれすれまで降りてきていたが、ニューヨークのハヤブサの狩りをみると、ケリの群れの行動はとても危険な行動ではないかと思えてならなかった。でもハヤブサらしい猛禽類が上空から突っ込んできた時、すぐ下が水面なら水中に突っ込んでしまう可能性があるから、ケリにとっては安全なのだろうか。危険を避けるためにはこのような生死ぎりぎりの行動が必要なのだろう。
こうしたケリの姿を頻繁に見かけるから、蟹江周辺ではケリの数は多いのではなかろうか。私はケリがひっそりとした生き方をしているのではないかと思っていたが、NHKの「ダーウィンがきた」のケリの番組を視てケリへの認識を改めることになった。
親子のケリ
その番組では、ケリは人間が住む近くで生活していること、春になって番いになると、田起しした田んぼ近くに巣造りし産卵して子育てをする。その巣も田起しする田んぼの中やその畦だった。田植えのために人が耕運機で地面を掘り返している場所を平気で歩きながら、土中のミミズや昆虫等の幼虫を啄んで食べていた。これはケリだけでなく私の経験ではムクドリ、シラサギ、カラス、ハクセキレイも同様の行動をしていた。耕運機の大きな音と運転している人にはちっとも驚く様子はない。春先になって巣を造って産卵しヒナを育てている時、カラス等の天敵が来るとヒナや縄張りを守るために、番いの二羽が攻撃しに飛び立っていった。その攻撃の仕方は大人しい鳥というイメージとは異なり、激しいものだった。縄張りの範囲を超えるとすぐ戻るというよりは、執拗に追いかける場面が放映されていた。どうもケリは気性が荒く激しい鳥のような気がしてきた。
ケリを見かけると注意するようになったが、三月末に日光川と蟹江川が伊勢湾に合流する地点の堤防を自転車で走っていたら、土が掘り返された田んぼから二羽のケリが飛び立って上空をゆったり飛んでいたトビに向かって攻撃を仕掛けているのを見かけた。トビの動きはゆったりしているが、それに向かって執拗に攻撃していた。トビはそれを避けるために、その場所から上空に上がって行きその場から離れていったが、それでも追いかけて攻撃していた。遠くまでトビが離れていったらようやくケリは戻ってきた。
ヒナを守る行動
テレビ放映と同じように、カラスに対しても攻撃しているのを見かけた。二羽で攻撃していたが、カラスが離れていったら一羽は巣があると思われる場所に戻って来た。もう一羽はそれでも追いかけて行った。さすがのカラスもたじたじといった様子である。カラスがトビを攻撃しているのを頻繁に見かけるが、そのカラスをケリが攻撃している。何か推移律通りで可笑しくなってしまった。ケリ>カラス、カラス>トビ、ケリ>トビの関係があって、ケリ>カラス>トビの推移律を満たしているのである。
カラスも巣でヒナを育てている時に人間が傍を通ると攻撃してくることはよくニュースの映像でやっているから、このケリの行動はヒナや縄張りを守るために、普段では見られない行動だろうと推測できる。その母性の強さは姿からは考えられない程凄いものではないかと感じた。
私が住む蟹江の団地の近くには田んぼや畑がある。この辺りは名古屋近郊でありながらまだ町のような田舎のような雰囲気がある所である。五月の連休明けに自転車でカメラを持って野草や鳥の写真を撮りに出かけたら、団地を出てすぐの田起しした田んぼにケリが数羽いたのを見つけた。それで写真を撮ろうとカメラを構えていたら、そのケリはハトやカラスが近くを通るとそれを追いかけていく。しかしすぐ戻ってくる。私がいる道路の田んぼを挟んだ向こうの道路に舞い降りて、田んぼ近くに留まっていた。これまでケリは飛び立つと遠くの方へ飛んでしまうのに、いつもと様子が違っていた。私はこの近くに巣があり抱卵中なのではないかと推測した。この田起しした田んぼの脇には用水路があり畦には春の植物が生えている。その中に巣があるのではないかと思ったが、それらしいものは分からなかった。
それで自転車の傍でカメラを構えてケリを撮ろうとしていたら、ケリの傍に小さな鳥が歩いているではないか。先程はケリの成鳥が三羽だったが今は二羽になっていた。小さな鳥はケリのヒナではないかと思われた。茶色の斑点があり、田起しした田んぼの中を歩き回っている。数えてみたら三羽のヒナだった。先程からケリがハトやカラスを追いかけていたのはヒナがいたからだった。ケリの親は頻繁に「キーキー」と警戒音を発して鳴いている。三羽のヒナはそうした親の警戒音等気に留めずに、田んぼの中をあっちに行ったりこっちに行ったりと自由に歩きまわっている。三羽のヒナの行動に二羽のケリの親は気が気でない様子で、田んぼの真ん中辺りにいて警戒音を発して鳴いていた。一羽のヒナは私の近くまで来たが私に気をかけている様子は全く見られなかった。親がヒナたちをコントロール出来ていない状況だった。
餌を探すケリのヒナ
するとケリの親の一羽がヒナと私の間に入り込んできて、私をじっと見ていた。それも威嚇し敵意を感じさせるような雰囲気だった。カラスやハトだったら攻撃しに来たに違いないと思う。こんなに近くでケリを見たのは初めてだった。人間に対してもヒナを守るためには、危険を辞さない行動の表れだったのではないかと思った。
だんだん大ききなるヒナ
今年の四月末になって同じ経験をした。日光川の河口に出かけようとして車を運転していたら、田起しした田んぼでケリが鳴いているのを見かけた。そこで車から降りて写真を撮ろうと近づいて行った。するとケリの一羽が大きな警戒音を発した。別の一羽が飛び立って私の近くに飛んできて反転していった。私を威嚇しているのだ。そうした状況を見てこの田起しした田んぼにきっとヒナがいるのではないかと思った。ケリの番いだけなら飛び立って移動する筈だからである。カメラを望遠にして田んぼにいるケリの辺りを見回した。去年もそうだったが田起しした泥やイネの根の色とヒナの色が同じのでなかなか見つけ出せない。何度も見かけているうちにやっぱりヒナがいた。その親の甲高い警戒音でヒナは親の傍に戻って来て、親の腹の下に入った。ヒナは一羽だけのように見えたが写真の様子から別のヒナの脚らしいものも見えた。それまで立っていたケリの親はその場に脚を曲げて座り込むような形になった。私を威嚇しても逃げないのとヒナを守らなければならないので、座り込んでヒナを腹の下に抱え込んだのではないかと思う。このようにして二年続けてケリのヒナを見ることができた。
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