東根市にある白水沢ダムのダム湖に沿った道から右手に入っていくと、ムクロ沢林道がある。いつもは五〇〇メートル位手前の道路端に車を停めて、カメラと鈴を持って歩いて行く。そうするとムクロ沢林道の入り口に着く。そこ掲示板にはここから先は立ち入り禁止で、事故に巻き込まれても責任は負えないと記されている。それでも春先や秋口には近くに車を停めて、山菜やきのこ採りに入り込んでいる人たちがいる。私も用心しながら山道を歩いて行く。その入り口から歩くとすぐ草叢に入る小道がある。そこにはニリンソウやヤブレガサ等の植物が生えているので写真を撮りに入っていた。そこ少し先まで行くと川幅が狭い谷川が流れていて、その奥は川床が高くなり手前に小さい滝になって流れ落ちている。周りは少し薄暗い感じの場所だった。谷川の端(はずれ)まで行くと鳥がさっと飛び立って川下の方に飛んで行った。そんなことが何回かあった。こんな谷川で飛んでいく鳥は何という鳥なのかと思いながらも分からなかった。
村山高瀬川の支流で見かけたカワガラス
十月初旬になって山形市の高瀬から紅花トンネルに抜ける県道脇にある村山高瀬川に入り込む支流の草叢に写真を撮りに入った。ミゾソバ、アキノウナギツカミ等の他にイシミカワの写真を撮りたかったからである。山形近辺でイシミカワの写真は数枚しか撮れなかった。前年度にその支流で偶然イシミカワを見つけて写真を撮っていたので、今年も期待しながら出向いたのだった。残念ながらその場所にイシミカワは生えていなかった。川の脇にある田んぼを維持している農家が、毎年ある時期になると畦道やその周辺の雑草を刈ってしまうからである。雑草という烙印を押して、人間本位の視点で必要のないものとしてどんどん刈ってしまう。因みに蟹江に戻って植物の写真を撮ろうと歩き回っていたら、そのイシミカワがそこら中にあった。山形では殆ど見かけることが難しいのに当たり前のようにそこかしこにあって驚いたものである。
何種類かの野草の写真を撮って帰ろうとした時に、その村山高瀬川の支流の谷川で初めてカワガラスを見かけた。その姿を写真に撮ろうと急いでシャッターを切った。川の中ほどの石の上に止まって川の様子を見ていたが、少し経つと水の中に入って行った。その先で水から上がって石の上に留まっていた。多分水中の水生昆虫を獲ろうとしていたのではないかと思う。
餌を探すカワガラス
NHKテレビの「さわやか自然百景」では、谷川近くの清流にはカワガラスがいて採餌や子育てしている様子が度々放映されている。テレビの中ではカワガラスはありふれたように見えるが、私は度々谷川周辺を歩きまわっているがこれまでカワガラスを見かけたことはなかった。簡単に見かけることはできないのではないかと思う。こうした映像が撮れるのはカワガラスがいる場所が分かっていて、それを撮りに行けるプロたちなのではなかろうか。上述のムクロ沢林道で瞬間的に見かけた鳥は、きっとカワガラスだったに違いないと今では思っている。
「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉 上田秀雄 山と渓谷社)のカワガラスの項目を見たら「留鳥で、生活環境は上流から中流の河川、山間の渓流、沢など。行動は、繁殖期以外は一羽で生活するものが多い。一定の範囲内で移動しながら、水中に潜ったり、水底を歩いたりして、水生昆虫類や小魚などを採食する。尾羽をよく上下に振ったり、翼をパッパッと半開きにしたりしながら、流木や石の上で休息する。休息中によくまばたきをし、白いまぶたがよく目立つ。飛翔は速い羽ばたきで、低空を一直線に飛ぶ。繁殖期が普通の小鳥類より早く、高地や北方でも春早くからさえずる。」と記されている。
カワガラスは水生昆虫を餌にしている。カゲロウ、トビケラ、カワゲラ、イトトンボのヤゴ等だろう。谷川に入って石ころをひっくり返すとその裏側にかなり多くの水生昆虫を見つけることができるから、谷川にもよると思うが、餌はかなり豊富ではなかろうか。今でもカワガラスを見かけた谷川とその情景を思い出すから、私にとっては印象深い経験だったのではないかと思う。(スズメ目 カワガラス科 カワガラス属 カワガラス)
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