蝶(チョウ)の幼虫の食性の違い

その他編

植物の中には、虫媒花のようにその花の蜜や花粉を昆虫に与えて、その種を実らせる働きを期待するものがある。しかし、昆虫の方はそうした花の都合だけで生きているわけではない。昆虫はその生き様から、植物から都合が良い餌を奪うこともしている。食うか食われるかの関係も、植物と昆虫との関係の中に含まれている。

 私は小さい時から昆虫の中でもトンボに興味を持つようになって、小学校から中学校にかけてよく採集したものである。その集め始めはハラビロトンボに始まる。それまでもトンボとのつきあいは長くあった。というのは小学校低学年の頃、お兄ちゃんたちと一緒にギンヤンマを採ることに夢中だった。ギンヤンマのオスは縄張りを作ってその中を巡回しているが、それをどのようにして捕まえるかという技術を、お兄ちゃんたちの傍で見ながら覚えたものである。そうした経緯はあるものの、ハロビロトンボを見たときは仰天した。というのはシオカラトンボやムギワラトンボ(シオカラトンボの雌)と同じ風貌でありながら、尻尾が平たいのだ。それをきっかけでトンボの採集が始まった。他にも思い出深いものにキイトトンボ、ショウジョウトンボ、チョウトンボ、ウチワヤンマなどがあるが、展翅台をへたくそだが何とか作って、トンボの胸にナフタリンを砕いて防腐剤として入れて、翅の展翅をしたのである。そんな中でもチョウではカラスアゲハ、ジャコウアゲハ、キアゲハ、アゲハチョウなどを採っていたが、思い出深い蝶として思い出すのはモンキアゲハである。この蝶を名古屋近郊(清須市)の五条川傍の清州城跡で捕り損なったのである。人生の中でモンキアゲハは一回も採ったことがない。

モンシロチョウ

   モンシロチョウの幼虫の食草(アブラナ科)

 蝶の採集をする専門家は、綺麗な翅のままの蝶を採りたいために、その幼虫がいる場所やその植物をよく知っている。つまり、幼虫が蛹になって蝶になる、つまり羽化する時をねらって採集してしまう訳である。例えばモンシロチョウとモンキチョウは、一見すると翅の色の違いだけだと考えていたが、幼虫の食べる植物が違う。モンシロチョウはアブラナの仲間で、菜の花やキャベツ、大根などに卵を産むが、モンキチョウはマメ科の植物に卵を産む。例えばカラスノエンドウやシロツメクサなどである。確かめていないがエンドウマメにも産卵するのではないかと思う。

  モンキチョウ

   モンキチョウの幼虫の食草(マメ科)

 人間が蝶を採集するためだけではなく、蝶のオスも子孫を繋げる戦略を考えている。キャベツ畑でモンシロチョウがひらひらと行ったり来たりしながら飛んでいるが、その多くのチョウはオスだというのだ。蛹から孵るメスをチョウになった瞬間に交尾しようと待ち受けている。蝶の種類によって異なるが、メスは一度交尾すると、二度と交尾することを拒否する。その時は尻尾を上にしたり下にしたりして交尾できない体勢を取るのだ。

アゲハチョウ(ナミアゲハ)

   ナガサキアゲハ

 アゲハチョウとナガサキアゲハの幼虫の食草(ミカン科)

 チョウの幼虫がどんな植物の葉を食べているかを調べてみると、アゲハチョウはミカン、カラタチや山椒などの柑橘類に、それと似たキアゲハはセリ科のニンジンやパセリなどで育つ。姿形が同じようでも幼虫の食性は全く違っている。他にも、私が小さい時から馴染んでいるアオスジアゲハはクスノキの葉を食べ、ツマグロヒョウモンはスミレを食べている。国蝶であるオオムラサキは、幼虫の時期にはエノキの葉を食べ、チョウになるとクヌギやコナラのようなドングリがなる木などの樹液(カブトムシ等と競合する)やクリやクサギの花の蜜を吸っている。このように、その幼虫の食性に合わせた植物を探せば、そのチョウを手に入れる確率が高くなる筈である。

キアゲハ

   キアゲハの幼虫の食草(セリ科)

  アオスジアゲハ

  アオスジアゲハの幼虫の食草(クスノキ科)

 少し余談になるが、私が小さい時から印象に残っているアオスジアゲハは、夏になると木の上を被うヤブガラシによく飛んできて蜜を吸っていた。何故だろうと単純に考えたことがあった。そしたらこのチョウは口吻が短くユリのように花の奥にある蜜まで口吻が届かないので、ヤブガラシのような蜜が吸い易い花に集まってくるとのことだった。また夏の暑い時に道路に水を撒くと、その水を吸いにも来ていた。これは水分補給なのか、それともナトリウムなどの物質を補給するためかは分からない。こんなちょっとした疑問も、後年になって解決できると嬉しいものである。

 同じようになぜチョウの幼虫がそれぞれ食べる植物が異なるのかという問題がある。これも進化の過程で、植物と蝶とのせめぎ合いの結果だろう。ある化学成分を持った植物は敵である蝶を避けるために化学成分を産出するのだが、チョウの方でもこれに対する適応力で対抗する。こうした相互作用(やりとり)が進むと、蝶の方では他の植物の別の化学成分に新たに対応するよりは、これまでの植物の方が対応しやすいということになる。このように結果的に食性としての植物が固定されるという訳である。こうしてチョウの幼虫の食性が決まってくると考えられる。

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