カラスとタカでどちらが強いのか

その他編

野鳥の写真を撮るようになって、鳥たちの関係がとても気になり出した。主にカラスとタカとの関係である。私は長いこと猛禽類のタカは肉食で肉を裂き易い鋭い嘴を持っており、羽は大きく頑丈で足は太く、獲物である動物を掴みやすい鋭い爪を持っている。そんなことから空の王者がワシやタカの仲間だと思い込んでいた。そのタカのうち、トビはよく見かけるタカの仲間である。

トビを追いかけるカラス

写真を撮り出したら、トビは空中でカラスにいつも追いかけられて突っつかれている。殆ど抵抗もせずゆっくり羽ばたきながら攻撃を避けてばかりいる。トビの方がカラスより体は大きく、獰猛さから言ったらトビの方が断然強いと思っていたが、いつも追いかけているのはカラスで、逃げ回っているのはトビである。こうした光景は山形や海津の畑の上空でも、新庄の鮭川上空でも、はたまたあま市の五条川の上空でも観察している。カラスの攻撃方法は二羽のカラスがトビに飛びながら近づいて行って突っつく場合が多い。最後は一羽が離れていくが、残った一羽がどこまでも追いかけていく。その間トビは体を反転しながら滑空して円を描いて飛翔している。そんなカラスに追いかけられるトビの写真を何枚も撮ってきた。

 トビ

 カラスが追いかけるのはトビだけかと思っていたら実がそうではなかった。福田川や日光川の堤防にはオオタカが良く飛んでくる。オオタカの大きさはカラス位だがこれもカラスに追いかけられている。オオタカはいつもカラスに狙われていて、飛び立つとカラスが二羽で追い立てて上空高く飛んでいく。オオタカが木の幹に止まっているとカラスたちもその木に止まってオオタカの様子を見ている。

 オオタカ

最近ではカラスが木に止まっているとオオタカなどの猛禽類が傍にいるのではないかと思うようになった。先日も日光川の土手の大きな木に二羽のカラスが見えたので、傍にタカがいないかとカメラを望遠にして確かめてみたら、思った通り傍にタカが止まっていた。そのタカの写真を撮ろうとしたが木々に隠れて全身を撮ることはできなかった。木にとまったタカをカラスは攻撃することなくタカが飛び立つのを待っている。タカが飛び立つとカラスも飛び立って攻撃し始めた。飛び立ったタカはオオタカだった。大きさはカラス位だが、これ程しつこく追いかけられ突っつかれると、餌を捕ることも難しいのではないかと心配になった。

日光川の上空で、また二羽のカラスがタカを攻撃していた。オオタカの場合と同じだったが、写真を撮ってパソコンに取り込んでみたらタカの仲間のノスリだった。ノスリはカラスよりは大きいのに、二羽のカラスに突っつかれていた。このカラスの執拗な攻撃には、どのタカも閉口しているのではないかと思う。

 ノスリ

こう考えるとこの辺りで一番強い鳥はカラスではないかと思うようになった。それではタカの仲間を一様に攻撃しているかというとそうでもない。日光川には二羽のミサゴが住んでいるがカラスがミサゴを攻撃している場面はあまり見たことはない。ミサゴは魚を食べるので、餌が競合しないからなのか、私が見かけていないだけなのか分からない。

 狂暴とも言えるカラスだがこれが一番強い鳥かというと、それよりも強い鳥がいた。それはケリである。日光川河口の善太川と合流する突端に近い田んぼにはケリが二羽いる。三月になると田起しした田んぼのどこかに営巣しているようで、昨年も見かけていた。そのケリはカラスが田んぼの上空を飛んで来ると、「キキッ、キキッ」と大きく鳴きながら二羽でカラスに向って行く。さしものカラスもケリの勢いに負けて逃げ回っている。

ケリは私が住む団地近くでも営巣していた。孵化した数羽のヒナは田植え前の田起しした所を自由に歩き回っていた。ケリの親はヒナの行動をコントロールできず、途方に暮れている風情だった。そこにカラスが飛んで来ると、ケリの親は「キキッ、キキッ」と鳴きながらカラスを追いかけ回し出した。私が田んぼ近くの路上に自転車を止めてヒナを見ていたら、親が「キキッ、キキッ」と鳴きながら飛んできて私を威嚇した。

このようにケリはとても気性が激しい鳥である。さしものカラスもタジタジとなっていた。ケリの行動を見ると本来カラスと出会った時いつも同じ行動を採るのか、営巣し孵化させたヒナがいるから、それを守るために攻撃的なのかは分からない。

あま市の五条川には近くに骨粉や膠(にかわ)を作る工場があり、その材料であるニワトリの骨や材料が工場脇に置いてあり、製品を作った後の廃棄物を五条川に流している。それらを狙ってカラスたちは終日その周りにいる。カラスの集団は川を挟んだ向かいの森に住みついている。その場所にはトビも住みついていていつも何羽かが工場の上空を旋回しながら飛翔している。カラスとトビが同じ餌を摂りながらで生活している。その餌場である五条川に行くとカラスばかりではなく、トビの姿を恒常的に見ることができる。上述したように、カラスがトビを追い掛け回している光景が見られる。

そんな積もりで見ていたら、ある時初めてトビがカラスを攻撃する場面を見た。トビが塀の上に止まっているカラスに対して襲いかかった。これまでそんな場面は見たことがなかったので吃驚してしまった。いつもうるさい奴らだと思って何とか避けているものの、本当に怒ればトビの方が強いのかも知れないなと思った。

カラスが猛禽類のタカを追いかけるのは、将来の自分の巣の卵やヒナを守るための前もっての予防線的攻撃なのかもしれない。タカに対する一種の条件づけ学習である。

NHKの「ダ―ウインがきた」のオオタカの番組で、いつもカラスに追いかけられていたオオタカが、ある時カラスの一羽を水の中に沈みこませて殺し、それを陸まで羽ばたきながら運んでから啄む場面があった。周りでカラスが大騒ぎしているものの、そんなことはお構いなしだった。

やはりタカの仲間は、本当のところ獰猛で強いのかも知れない。またカラスが縄張りや営巣して孵化させ育雛(いくすう)している時期は、それらを守ろうとして必死になって勇敢に攻撃しているだけかも知れない。それにしても外見上は暴れん坊のカラスたちを見ると、やっぱり凄いとしか言えないのである。

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