9月から10月にかけてセイタカアワダチソウが花を咲かせる。一本二本という咲き方ではなく、野原や畑全体がセイタカアワダチソウで被われるのである。
またその草の先に咲く花も強烈な黄色で、その量と色で圧倒される感じがする。この花はキク科だということは知っていたが、アキノキリンソウの仲間であることは知らなかった。秋になるとアキノキリンソウがたくさんきれいな黄色で咲いているのを見るが、同じ仲間である。
繁殖力が強い理由の一つには、他の植物の侵入を抑える化学物質を出すことによるアレロパシー効果によるものと言われている。こうした効果を持つ化学物質の話はこのセイタカアワダチソウで初めて聞いたが、それ以外にもマツ、ヨモギ、ヒガンバナ、クルミなども同じ働きをする化学物質(それぞれ異なるが)を出すようなのだ。しかもこの物質はセイタカアワダチソウ自身にも作用すると言われ、生育条件が悪くなると繁殖力は低くなると聞いている。恐らく毎年同じ場所に生えていると、その数は減ってくるのではないかと思う。これまで秋の野原ではススキが中心だったが、こうしたセイタカアワダチソウがススキの野原を駆逐しだしたのだ。その理由には、根が深くなる、動物の糞や死がいを栄養にするなどの好条件があって増えて駆逐するようになってきたらしい。
(セイタカアワダチソウの蜜を吸うキタキチョウ)
東日本大震災の影響で、福島第一原発の放射能漏れで、福島県の浪江、双葉や富岡など浜通りの人たちが避難して、畑が放置されたままになっている。その結果、野生のイノシシなどが群れをなして、その畑や町中を走り回っている様子がテレビで放映されていた。元来、イノシシは浜通りにはそれほど多くはなかったと思われる。イノシシはだんだん東北まで北上し、阿武隈川をいつ越えるかという話も以前聞いたことがある。最近では山形にも入り込んでいるというニュースもある。私自身は、宮城県の川崎から笹谷トンネルがある笹谷部落の近くの国道283号線で大きなイノシシ(100キロ以上)が死んでいて、それをレッカー車で軽トラックに乗せる作業をしている写真で撮ったことがある。山を越えると山形だから、本当に山形まで来ているのだなぁと実感じた。
イノシシの群れが走り回っている叢がセイタカアワダチソウで被われていた。田んぼや畑が放置されると、日本の畑や田んぼがどう変化していくかの実験をしているようなものである。人のいない家にもネズミ、ハクビシンやアライグマが入り込み、そこら中に糞をする。そして畳も家具もだんだん汚れて人が住める状態ではなくなっていく過程をみることができるのだ。今回のこうした状況を見ると、人が介在しなくなると田んぼや畑がどうなるか、家がどうなるかという変化の速さは、私の予想をはるかに越える速さだった。こうした崩壊していくプロセスの中にセイタカアワダチソウは位置づけられるのではないかと思う。
私自身のセイタカアワダチソウの経験といえば、舞錐(まいきり)による火起しに使う道具の芯にセイタカアワダチソウの乾いた茎を使ったことがある。これまではウツギが良いと言われていたが、このセイタカアワダチソウの茎も良いということを知り、青い茎を何本か切って乾燥させ使ってみた。舞錐の芯は簡単に折れては困るし、回転させると木屑が少しずつ出来て、それに着火するようになる微妙な条件が必要となる。確かに舞い切りを回転させても折れることはなく、木屑が出てくるから、セイタカアワダチソウは舞い切りの芯には最適だった。しかも無料で大量に手にすることができるのが最大の長所かも知れない。何と皮肉なものだろう。
もう一つ私の経験で面白いのは、テレビ番組のある時代劇で河原での決闘シーンがあったのだが、それが秋口だったのか、決闘場面の周辺の植物がセイタカアワダチソウだった。一面黄色い花が咲く中で、恐らく江戸時代の決闘場面が撮影されていた。余りかたいことを言う気はないが、時代考証の中には、背景の電信柱があっては困ると誰でも感じるだろうが、少しはこうした植物考証も入っていたらと思ったものである。
セイタカアワダチソウの花の一部を、東京の高級料亭の料理のつまにしたところ、それがとても風流に見えたと週刊誌で読んだことがあった。世間では、マイナスイメージばかりのセイダカアワダチソウだが、良く傍で見れば可憐な存在なんだなぁと思ったものである。
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