アマガエル

梅雨時の木の葉や下草の葉に、アマガエルが動かないでじっとしているのをよく見かける。その殆どは緑色のアマガエルである。カエルといえばすぐアマガエルを思い出す位、誰にとってもアマガエルは馴染みの深いカエルである。(以下はアマガエル)

鶴岡にある大宝幼稚園に保育助言・指導に行った際、面白い経験をした。年長児(五歳)クラスに行ったら教室の中に水槽があり、その中にアマガエルのオタマジャクシが何匹か入っていた。その中には既に後ろ足が出ているのが二匹いた。「おたまじゃくしがいるんだね。」と担任の角屋先生に話しかけたら、先生が「いつになったら、この灰褐色のオタマジャクシの色が緑色に変わるのですか。」と尋ねてきた。彼女の考えではこのオタマジャクシの体色は、時間が経つと緑色に変化するという前提での質問だった。

 そう聞かれた私は、時間経過で必ずしも緑色になるとは限らないのではないかと瞬間的に思った。というのはこれまで色々の色のアマガエルを見てきたからである。今まで見てきたものの中には、緑色ではなく灰色や白っぽいもの、果ては空色のアマガエルを見たことがあった。オタマジャクシの黒っぽいものは見ているが緑っぽいオタマジャクシは見たことはなかった。緑になるとは限らないと考えた理由には、タコやイカは環境に合わせて、その体色を短時間に変化させることを知っていたからである。

私はメダカを長く飼っているが、このメダカも環境に合わせて体色を変化させる。例えば黒いバケツや水が黒くなってしまった発泡スチロールで飼っているメダカは、黒っぽい色をしている。タッパー等の透明容器で飼っていると体色が白っぽくなる。こうして動物は、自分の身を守るために体色変化させる能力を持っているのではないかと思ったのである。メダカに関して言えばヒメダカは元々橙色であるが、これが黒いバケツに入れられると色が黒くなるかと言えばそうはならず、相変わらず橙色である。こう考えると元来遺伝的に色が決まっているものと、メダカが環境に合わせて体色を変えられる能力とは別物だと考えなければならない。

 アマガエルが環境に合わせて体色を変化させるということは、環境の色等の状況を的確に掴むことができる知覚機能を持っているからである。高等動物のように思考し認識するというレベルではないと思うが、その環境刺激に合わせて条件反射的に体色変化させるメカニズムを持っているのだろう。インターネットで調べてみたら、アマガエルもやっぱり環境に合わせて体色変化させると載っていた。私が初めて見て強い印象を持った空色のアマガエルは、体色を変化させる色素が欠けていると述べられていた。そうだとすると、この空色のアマガエルは周りの環境が緑の植物だらけで、アマガエル自身は体色を緑に変えた積もりでも実際は空色になってしまっている可能性がある。白、灰色や空色のアマガエルはサギ、カラスやヘビ等の餌の標的になり易く生存率も低くなって、結局その子孫は絶滅していくことになるだろう。(以下は変わったアマガエル)

 インターネットで面白い実験を紹介していた。それはツバキの葉っぱの上に乗っているアマガエルである。そのアマガエルの体色は白っぽくなったという。また別のアマガエルを地面の石の上に置いたところ、何十分かの内に色が灰色に変化したという。私たちの感覚では、アマガエルの緑色は生まれつきの色だという観念がこびりついていて、イカやタコのように瞬時に体色を変化できるとは考えていない。こんな短時間で体色を変化させるアマガエルの能力に吃驚した。

 別の疑問はツバキの葉の上にいるアマガエルは、なぜ緑色ではないのかということである。ツバキの葉は表面がキチン質でできており気孔は裏だけにある。イネやムギ、ひまわりの葉は完全に裏だけということはなく、表や裏の両方に気孔は点在している。しかし椿の葉の表面はガラス状のもので被われていて、裏にしか気孔ない。透明なガラス状のキチン質の表面は紫外線が反射されている可能性がある。インターネットでも紫外線を反射していることが白くなる原因ではないかと述べられていた。こう考えるとアマガエルは紫外線を感知できる能力を持っていることになり、それに反応して体色を白くしているのではないかと考えられる。

 角屋先生にアマガエルの体色変化を実験的に示す保育をやってみたらと提案した。そこで私が天童市内の田植え時に、アマガエル一二~一三匹とトノサマガエル二匹をタモ網で捕って、それを角屋先生に提供した。渡すまでの間アマガエルを飼育し餌を確保することが難題だった。朝夕にタモ網でガ、ユスリカやハチを捕りに行ってペットボトルに入れて持ち帰り、それを水槽にいるアマガエルとトノサマガエルに与えた。カメムシも捕ったので入れておいたが、食べた様子はなく残っていた。だんだん餌を捕ることに疲れてきて良い餌の取得方法はないかと考えた末、釣り道具屋で冷蔵のミミズを買って与えれば良いのではと思いついた。その後ミミズ、アマガエルとトノサマガエルを無事に角屋先生に渡すことができた。

角屋先生は、その後アマガエルとトノサマガエルを周りが赤い水槽、灰色の水槽に分けて飼育した。その保育の結果を確かめるために大宝幼稚園に出かけることになった。そこで私は天童市内の田んぼに行き一〇匹位のアマガエルを捕り、黒いバケツの中に入れ黒いビニールで蓋をして一週間位飼育した。餌も最初やっていたが最後の数日間は与えないままにした。幼児たちに黒いアマガエルを見せたら、すぐに田んぼに逃がしてやろうと考えていたからである。角屋先生が周囲の色を変えた水槽では、アマガエルはその周りの色に合わせて体色を変化させていた。

その保育が終わる頃、私が持っていった黒いバケツのアマガエルを幼児たちに見せた。アマガエルの体色は黒っぽくなっていた。真っ黒という訳ではないが、黒ずんだ色になっていた。幼児たちもフロアーを飛び跳ねるそのアマガエルを追いかけてその黒さを確認した。

 その後すぐに黒っぽくなったアマガエルをバケツに入れて、透明なビニールの蓋をして、近くの鶴岡市内の田んぼに放しに行った。幼稚園のクラスで見せた黒っぽかったアマガエルが田んぼに放すときには緑色になっていた。一時間位の間に黒っぽさがなくなってしまったのである。周りの環境の田んぼの緑に瞬時に合わせたのか、それとも基本的な体色が緑色であるのか定かでない。イカでもタコでもヒラメでも環境に合わせて体色を変化させることはできるが、死んでしまった時元来の体色が現れるのではなかろうか。

アマガエルはある色素がない時には緑の植物の間でも白っぽかったり空色だったりするが、普通のアマガエルが死んだ時には体色は何色なのだろう。多分緑色のような気がしている。そう考えると角屋先生に尋ねられた「いつになったら、この灰褐色のオタマジャクシの色が緑色に変わるのですか。」の問題がまた生じてしまうことになる。メダカのように基本的な体色は決まっているが、環境による体色変化も行えるという二段構えなのかどうか、これから調べていきたいと考えている。

 しかし環境と遺伝の交互作用による環境への的確な適応が行われるメカニズムを、このアマガエルの体色変化でも経験し、動物はしたたかな機能を持っているなあと感心したのである。(アマガエル科 アマガエル属 ニホンアマガエル)

                     

コメント