アオジ

動物編

アオジは冬になると仙台の知人宅の餌台近くで何度も見かけていた。広い庭の南側に三つの餌台が等間隔に並べられている。その餌台の南側は大きな竹林になっていて中は薄暗い状態になっていた。そんな環境が鳥たちにとって危険を感じた時の避難場所にもなり巣造りの場所となってサンクチャリの役割を果たしている。そんな環境だから野鳥が安心して餌を啄みに来ることができる餌台となっている。

秋が過ぎて冬が来ると餌台に餌を置くようになる。それを知って野鳥たちが毎年訪ねて来るようになった。野鳥たちは用心深く慎重だから餌台に餌を置いてもすぐに啄(ついば)みには来ない。スズメの集団が最初に来て次にヒヨドリ、ムクドリ、カラスと来る順番はほぼ決まっている。

冬の雪が降る季節になっても鳥たちは竹林周辺にい続ける。朝まだ薄暗い時刻に知人が餌を入れに行くと餌台の周りの木々で待っている。順番に入れていくと、入れた餌台にすぐに降り立って餌を啄んでいると話してくれた。餌にはニワトリの餌にするトウモロコシ、アワやヒエが入った混合飼料、アサの実、ヒマワリの種、ジュウネン(エゴマ)、カキ、リンゴ、ミカン等を入れている。

話しによると食べ残しの硬くなったパン、炊いたコメの余り、魚、腐りかけの肉や饅頭等、何でも置いておくと始末してくれると笑っていた。どんな鳥が来るかというと上述の鳥の他にツグミ、ウグイス、シメ、シジュウカラ、メジロ、キジバト、アオジやオナガである。いつも定期的にやって来る鳥の他、時々にしか来ない鳥たちもいる。大抵の鳥は餌台に降りて餌を食べているが、アオジだけは餌台に上がって採餌している姿を見たことがない。

アオジは餌台の下に落ちた餌を竹林の端から出てきて、ピョンピョンと跳びながら啄んでいる。ちょっと見るとヒバリやヨシキリのような羽の模様だが全体に緑の色合いである。しかも顔は黄色い髭(ひげ マスタッシュ)模様である。庭先の行動を見ると臆病でピョンピョンとはねる跳び方からすると敏捷で行動的な感じは全くしない。他の鳥たちは鳴き声も行動もけたたましく、特にムクドリやヒヨドリの鳴き声は凄まじいので存在感が大きいのに、アオジだけは大人しく鳴いているのを見たことはなかった。危険を感じるとすぐに竹林の中に隠れてしまう。アオジは敏捷というよりは鈍くさい鳥という印象だった。

 蟹江に戻ってから、伊勢湾に流れ込む日光川河口の土手に出かけている。冬期にはその土手の下には枯れたヨシの穂、葉と茎だけが残っているヨシ原があって、沢山の野鳥がその中を飛び交っている。その野鳥たちは飛んでヨシ原の中にすぐに隠れてしまうので写真を撮ろうとしても撮ることが難しい。ある時ヨシの茎に止まっている小さい鳥が逃げなかったので急いでカメラのシャッターを切った。望遠なのでどんな鳥かその時には詳細は分からなかった。

 家に帰ってパソコンに取り込んで拡大してみたら何とアオジだった。それも一羽でなく数羽の小集団を形成していた。仙台近辺では見かけていたものの、名古屋周辺の日光川の川縁(かわべり)のヨシ原で見かけるとは思ってもいなかったので、とても吃驚(びっくり)した。それも私の描いていたノロマでのんびりした鳥というイメージではなく、軽快で敏捷な行動や飛び方をしていた。そんなアオジの行動を見て餌台に来る鳥たちはある意味で疑似的な動物園と似た生活場面にいるのではないかと思ってしまった。人から餌を与えられるということは野生の部分を失くすことを意味しているということである。このアオジの行動から、ヨシ原で生きているアオジこそが本来の野生のアオジなのだろうと思うようになった。

 「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉 上田秀雄 山と溪谷社)によると、「生活環境は、平地から山地の疎林や低木の林、草原。行動は繁殖期以外は小群で生活するものが多く、薄暗い林道付近や竹藪、灌木の茂み、アシ原などに生息。繁殖期は林内の低木層で採食したり、林縁や草地などの明るいところにも出てきて、地上を跳ね歩き、昆虫類、クモ類、草の種子などを採食する。」と示されている。

またインターネットの「ペットライフを楽しくする情報メディア」によると「アオジはスズメ目ホオジロ科に属し、高原に住む代表的な野鳥として知られています。~中略~ アオジの大きさは全長一六センチで、スズメとほぼ同じです。足が細く胴体が大きいので、全体的にずんぐりとした外見が印象的です。~中略~ 非繁殖期のアオジは少数のグループを形成して集団で行動します。五~七月にかけての繁殖期にはオスは固有の縄張りを持つため、集団を離れて単独で行動するようになります。アオジはとても用心深い性格で、草むらや葉が覆い茂る木枝に隠れる習性があります。小さな体を守るための本能といえます。暗い印象の体色も、森の木々に紛れるために進化したものだという説もあります。人前で姿を見せることはかなりまれです。主にアジアの寒冷地、山地などに分布し、日本では初夏のころ、主に東北地方や北海道の産地で繁殖します。冬になるとインドシナ半島やインド南部、日本では本州西部以南へ渡り、低木のある草地、藪、林などに住みつき冬を越します。~中略~ 全国的に見ることができるアオジですが、いくつかの県ではレッドデータに載る危惧種に指定されています。現在も個体数は減少傾向にあります。」と記されている。

これらの記述から絶滅危惧種に指定されていることを考えると、アオジを仙台や蟹江周辺で見かけたのは幸運だったかもしれないと思うようになった。仙台の餌台の周りの環境はアオジの習性に沿ったものであり、蟹江で見ているヨシ原の環境も同様である。これまで私のアオジに対する印象は用心深く臆病だというものだったが、それは本来の適応行動そのものだと分かり、妙に納得してしまったのである。(スズメ目 ホオジロ科)

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