ウラナミシジミ

植物編

 蟹江周辺でこれまで見かけているシジミチョウには五種類いる。そのうち頻繁に見かけるチョウはベニシジミ、ツバメシジミ、ヤマトシジミで春から秋まで満遍なく見かけている。それぞれの種の発生の最盛期は違っていて、ベニシジミとツバメシジミは六月~七月に、ヤマトシジミとウラナミシジミは九月~十月によく見かける感じである。

 他にムラサキシジミは七年程の間に二回見かけただけで、出会ったのは奇跡か幸運だとしか思えないので、その発生時期は今のところはっきりしていない。 

 ●ウラナミシジミがコセンダングサとアレチハナガサの蜜を吸う

 そのうちウラナミシジミは他のシジミチョウに比べると体長がやや大きく、ツバメシジミ同様に尾状突起がある。この突起の有無と表の後翅の黒紋(オスは二つ メスは三つ)で他のシジミチョウと区別できる。また裏翅が明るい薄茶色なのでよく目立ところも特徴の一つである。

 ウラナミシジミは九~十月に突然見かけるようになる印象がある。蟹江周辺で羽化している訳ではなく、他の地方からやって来たチョウではないかと推測している。秋口になるとアレチハナガサやコセンダングサで吸蜜している姿をよく見かける。

 また秋の陽射しを受けて、葉や花の上で翅を開いて体を温めている場面もよく見かける。ヤマトシジミも同様の行動をするが、ウラナミシジミはそれよりも頻繁に行うので、この辺りの日照では体温が下がり過ぎて温めなければならないらしいので、南方系のチョウではないかと思われるのだ。これは早春に見かけるヒメギフチョウの行動からの類推である。

 「日本のチョウ」(日本チョウ類保全協会編 誠文堂新光社)には、「本土では越冬できるのは九州~関東地方南部沿岸の温暖な地域に限られ、発生を繰り返しながら分布を北に拡大し、八月下旬頃には個体数が急激に増加して、秋には北海道でも見られるようになる。」と記されている。

 ●クズの葉周辺を飛ぶウラナミシジミとオスのせめぎ合い

 蟹江でも九月頃には産卵、幼虫、羽化したウラナミシジミが出現している可能性がある。藤前干潟のコンクリート堤防脇のマメ科のクズが密生している上を、何匹かのオスのウラナミシジミがメスを探して飛び回っていた。メスを探して交尾・産卵し、幼虫が羽化して北上している可能性も否定できない。幼虫の食草はマメ科でエンドウ、ダイズ、クズ、ハギなどなので、クズの密生している周辺を飛び回っているのは納得できる。この時期には交尾し産卵し、幼虫がクズの葉を食べて羽化し成虫になって北上していくのかも知れない。

 晩秋の十一月の末の気温が下がってきた時期に、蟹江新田の佐屋川の土手下で、何匹かのオス同士が縄張り争いをしていた。翅はどのチョウもボロボロになっていた。メスと交尾できて産卵できても子孫は残せないだろうなと思う時期である。無駄な行動、無駄な闘いだと思ってしまった。

 ウラナミシジミは東海地方では紀伊半島、知多半島や渥美半島で幼虫か成虫で冬を越すと言われている。温暖な知多半島や渥美半島では四月頃から見られるようなので、伊勢湾にある藤前干潟に群生するクズに産卵したウラナミシジミの卵は春に成虫になれる可能性もある。でも四月過ぎに藤前干潟ではウラナミシジミを見かけない。この時期にクズは生えていないので、他に吸蜜のために移動している可能性は考えられるが、どうなんだろう。

 春から夏にかけて愛知県の海岸沿いや和歌山県から北上して、秋に内陸や北海道でも見られるようになるのがこのチョウの行動特性らしい。だとすれば蟹江周辺で、七月頃からウラナミシジミが見られても良さそうである。その年の初見期日を記録しておく必要があるようだ。

 ●アレチハナガサの蜜を吸うウラナミシジミ

 ある日藤前干潟に行く途中で名古屋市と蟹江町の境の福田川の土手に寄ったが、夏の終わりだったので案の定草茫々だった。そこで偶然ウラナミシジミが交尾している光景を初めて写真に撮った。その交尾している近くにはクズが生えていた。産卵場所としては十分な場所といえるだろう。ただ写真を撮っている間にハマダラカから体の何か所に集中攻撃を受けて痒みが取れなくなってしまった。

 このようにウラナミシジミは南方系のチョウで蟹江町内でも見かけるが、冬を越した卵が幼虫になり春に羽化している事実はまだ確認できていない。でも温暖化が進めば、このウラナミシジミも定着してくるかも知れない。キタキチョウのように四季を通じて見られるチョウになっていく可能性は否定できないのではないか。

 今見かけているウラナミシジミは、そう意味ではこの種のフロンティアとしての挑戦場面を私たちは見ているのかも知れないなぁと思ったものである。

(シジミチョウ科 ウラナミシジミ属)

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