ウツボグサの本物を見たのは宮城県の泉が岳の草原だったと思う。今から何十年も前のことである。ウツボグサは湿地帯ではなく、乾燥した草原に生えていたように覚えている。その時の印象は茎の先が塊りになって青紫の花がところどころについていて、他の野草に比べると重厚感があるように見えた。
ウツボグサ その1
ウツボという名前は、海に住むウツボという魚をすぐに思い出す。学生の頃家庭教師をしていた子どもと一緒に奥松島の宮戸島に海水浴に行ったことがある。この島は今回の東日本大震災で大きな被害を受けた東松島市(昔の野蒜)と陸続きになっており、仙石線の野蒜駅で降りて、後はバスで島の奥の月浜海水浴場まで行ったのである。その中央にある山の大高森(標高105m)から見る松島は、絵に描いたような松島の景観が見られるところである。
そのある浜の一角で泳いだがその海にはバフンウニがたくさんいて、バケツにいっぱい獲って帰ったのである。今から考えると、養殖していたバフンウニで密猟したことになる、そうとは知らずにこんなに簡単に獲れるのかと不思議に思いながら獲っていたら、その岩陰に大きなウツボがいた。大きさもかなりのもので、指でも噛みつかれたら千切れたのではないかと思った。
この言葉で別に思い出すのは、狂言のウツボザルの話である。狂言師の野村萬斉を扱ったドキュメンタリーで、息子のゆうき君を狂言師として育てるために、初めて芸を教えるのがウツボザルである。ウツボザルは、大名が猿回しの幼いサルの皮で、ウツボ(矢を入れる背負い袋)を作ろうと考え、それを手に入れようとする。猿回しはそれを断るが大名が強引に弓矢で脅して手に入れようとする。その時に幼い猿が芸をしてその大名の心を和らげ、そして命をすくわれるというストーリーである。放映の中ではこのウツボザルで、幼い子どもが基本的な狂言の動きや芸を覚える機会になると話していた。この狂言のウツボザルから、ウツボとは兵士の持つ矢を入れる袋(腰に巻いたり背負ったりする)だと理解することができるようになった。
ウツボグサ その2
ウツボグサはシソ科で茎は四角いはずで、一本だけ咲いているというよりはその周辺では何本か咲いているのが普通である。その花茎の先のウツボ状になっている部分では、花が一遍に咲くというよりは段々と下から上の方に咲いていくのではなかろうか。その点では、オオバコの花と同じような咲き方をする。
いつも散歩しながら写真を撮る原崎沼の遊歩道で、夏の時期に偶然何本か見つけて写真を撮ろうとした。私のデジタルカメラではピントが合わず、何枚撮ってもぼんやりとしか撮れなかった。そこを少し歩くと「綱張りの里」と命名されている原っぱに着く。そこにもウツボグサが何本も咲いていた。接写しようとするとピンボケになってしまうので、少し離れた所から撮った。その中に偶然にピントが合ったものが何枚か撮れた。写真で見ると、このウツボグサも風情がある花だと実感する。
ウツボグサの花に来たヒョウモンチョウ
原崎沼の遊歩道では、季節ごとに色々な植物が花を咲かせる。今年見つけたものではアカバナ、シロネなどがある。余り大きな植物ではないのでよく見ないと見つけられない。ただ遊歩道を散歩しているだけでは、こうした小さい植物が生えているのも分からないのではないかと思う。それに比べれば、ウツボグサは、その花の色が青紫であることから見つけることは容易である。しかしウツボグサは都会の原っぱでは見ることはできないのではなかろうか。そんなところも東北の自然の豊かさを感じるのである。
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