カンムリカイツブリ

蟹江に戻ってから車で一〇分程の善太川にカモの写真を撮りに行くようになった。マガモ、カルガモ、コガモ、ミコアイサ等が混在しながら、土手の下の水辺に上がったり水面を泳いだりしている。その土手に写真を撮るために行ったり来たりしているうちにカイツブリの姿を見かけるようになった。カイツブリはカモよりは小さく、首が少し長くて目がキョロンとしている。水中に潜ると長いと一分近く潜りっぱなしで、潜った場所から離れた場所に突然浮かび上がってくる。そのカイツブリの写真を撮るのはとても難しい。

カイツブリ

 そんな善太川をうろうろしているうちに関西線の鉄橋南の水面に首が白くて長い、頭に冠をかぶったような鳥を見かけるようになった。この鳥も潜って姿が見えなくなる。かなりの時間潜っていてやっぱり離れた場所に浮かんでくる。こんな鳥はこれまで見かけたことがなかったので写真を撮った。それがきっかけでこの鳥を知るようになった。カイツブリと同じ魚を水中で掴まえる水中採餌する鳥なのだろう。

 調べてみたらカンムリカイツブリだった。善太川ではいつも一羽でいることが多いが、時によっては二~三羽でいる時もある。時々潜って離れた場所に浮かび上がってくるが、私が見かけている時には魚を咥えていたことはなかった。

  カンムリカイツブリ その1

この善太川も干潮になると、四~五十センチのコイが数匹一緒になって悠然と泳いでいる。小さい魚たちは余り見かけない。この善太川や日光川周辺にはシラサギの仲間、カワウ、そしてカイツブリが多数いて、小さい魚たちは餌として捕られてしまうのではなかろうか。大きなコイを狙うのはミサゴ位ではないかと思う。

 伊勢湾に入り込む川が作った藤前干潟に冬期はカモ類の写真を撮りに行っている。その干潟に入り込む新川河口の水面にカンムリカイツブリが何羽かいて、それぞれ単独で行動しながら水中に潜りこんで餌取りをしている。カンムリカイツブリがいるんだなと思いながらその写真を撮ったりしていた。夕方に帰ろうとコンクリートの堤防を歩いていると、干潟の真ん中ほどの水面上に十数羽の鳥が浮かんでいた。多分スズガモの一群ではないかと思いながら、望遠にして写真を撮った。どのカモもそうだが干潟の中央にいるときは首を曲げて頭を羽の中に突っ込んで浮かんでいるので、姿が良く分からない。その時のそうだった。それでもその一羽が首をもたげているのを望遠カメラでピントを合わせて見たら、それはカンムリカイツブリだった。群れになっているのを見たのは初めてだった。時々スズガモやカルガモの群れの中に数羽が混じっていることはこれまでもあった。群れでいる利点は敵から身を守るのに危険を察知する可能性が大きいからではないかと思われる。この藤前干潟のカンムリカイツブリも夕方になると集団になり、夜を過ごしているのかも知れない。そうだとしたら善太川のカンムリカイツブリは、夕方になるとカラスやカワウのように住み家に移動していくのだろうか。

 カンムリカイツブリは善太川では夏には全く見られないから、冬に越冬のために移動して来るのだろう。シベリアから飛んでくるのだろうか。

  カンムリカイツブリ その2

 ヨーロッパから中国やモンゴル等のユーラシア大陸には分布しているようだが、日本国内で繁殖している場所が琵琶湖や霞ケ浦にあるという。大陸から渡って来るものと国内で繁殖しているものがあるらしい。藤前干潟には集団で越冬しているからこれらは大陸から渡ってきているのではなかろうか。

 「河川・水辺の生物図鑑」のカンムリカイツブリの項目によれば、「カイツブリ目カイツブリ科で、レッドデータブックの危急種となっている。形態は、大きさはハシブトガラス(五六センチ)体形はカモ型。色は冬羽は頭、体の上面が黒く、顔から下面にかけて白い。夏羽は顔に赤褐色や黒の飾り羽がでる。生息時期は、出現時期は秋、冬、春。生息環境は、解放水面に生息。流れの緩やかな所を好む。生活区分は水辺。習性は冬鳥。海岸や海岸近くの淡水湖沼や大きな川などに生息し、冬は内湾の海上に現れる。採餌は潜水を繰り返し、魚類を好んで食べる他、水生甲殻類、昆虫、イモリやオタマジャクシなどの両生類も食べる。繁殖は日本には冬鳥として渡来するが、青森県では繁殖記録がある。分布状況は下流域~中流域。」と記されている。

 これらの記述を見ると、大陸から渡って来るものと国内で繁殖しているものがいること、冬には内湾の海上に出て来る等は、私が観察しているものと一致している。

 「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉ら著 山と渓谷社)のカンムリカイツブリの項目を見たら、「時期は冬鳥。北海道では旅鳥。青森県と茨城県、滋賀県の一部では少数が繁殖している。環境は、越冬期には沿岸、湖沼や池、河川など。繁殖地は水草のある湖沼。行動は、冬は、一羽から数十羽で行動する。三~四月の渡りの時期には、一〇〇羽を超える群れにもなり、ハジロカイツブリと群れることもある。潜水して魚類をとる。」と記されている。

 ところでカイツブリの仲間は水中採餌するために一分近く水の中に潜っている。どうしてそんなことができるのだろう。とんでもない場所まで潜って移動して水面に出てくる。他のカモたちにはそんな芸当ができないのではないか。水中採餌する仲間にはカワウもいるしミコアイサもいるが、そんなに長時間は潜っていない。

 そこで調べてみるとカイツブリの仲間には、足に脛骨突起(けいこつとっき)という柔軟な動きができる関節のようなものがあって、水中で自由に動かす方向舵の役目を果たすものを持っていること、四本脚には膜があって水をかくことができるスクリューの役割りを果たしていること、カワウとは異なり羽毛は脂腺からの分泌物で水をはじき、羽毛の間の空気を排出し、体の中の気嚢(きのう 空気を貯めておく)を空にすることで、水中に潜ることができるという。この気嚢は潜水艦が水中に潜ったり浮き上がってくる時と同じ原理で、艦内の海水を出したり取り込んだりするようなものである。

 こんな仕組みを持っているから一分間も水中に潜っていられて魚を捕らえることができる訳である。こうした自然が作り出した仕組みを人間が学んで多様な道具を開発してきた歴史がある。カイツブリのこうした機能は進化の賜物だとは思うものの、本当に驚嘆すべきものだと実感せざるを得ない。(カイツブリ目 カイツブリ科 カンムリカイツブリ属 カンムリカイツブリ)    

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