実や種の分布戦略

その他編

植物は種や実をつけると、次の世代や子孫を増やすために、それを広く分布させる仕組みを進化させている。植物は今いる場所を動物のように任意に移動できる訳ではないから、種や実を動物に運んでもらったり風などの自然現象を利用して増やす戦略を取っている。

タンポポのように綿毛を使って風にまかせて遠方まで運んでもらう方法や、モミジのようにヘリコプターの羽根のように回転させて、出来るだけ遠くまで飛ばそうとするものもある。他にはホウセンカ、カタバミやゲンノショウコのように、実を乾燥させて弾ける(はじける)力を利用して跳ばそうとするものもある。また、アケビやイチイなどのように甘い実を作って、鳥などに食べてもらって糞として遠くまで運んでもらう戦略を取るものもある。

   タンポポ

  モミジ

 モミジ、ホウセンカなどは種を跳ばすとしても、植物の周辺部にしか生えないだろう。それを繰り返しながら何年間にわたって、じわじわと分布を広げる戦略ということになる。生育環境が極端に違わないので安全な方法かもしれない。それに比べると、タンポポのような風に頼って種を飛ばす戦略を取る植物は、その生き先の環境が極端に異なる可能性があるから、その点では大きなリスクを負っている。

  ホウセンカ

 リスクは大きいが遠くまで運ぶ戦略と、近くに種をばら撒きながらジワジワと子孫を増やす戦略をとる方法というように、植物は色々な繁殖戦略を採りながら種や実の分布を広げようとしている。

 小さい頃から、秋になって野原を歩いたり雑草の中に入り込むと、ズボンやセーターにたくさんの植物の実や種がついて、それを払いのけるのが大変だった想い出がある。今考えると、チカラシバ、イノコズチやアメリカセンダングサだった。ズボンについたチカラシバ、イノコズチだとバンバンと手で払うと割りと取れるのだが、アメリカセンダングサはなかなか取れない。ただ3つともセーターにくっつくと簡単にはとれない印象がある。セーターは羊などの毛から作られているから、動物の毛と同じだと考えると、これらにくっつけば3つともそう簡単には取れないはずである。

  イノコズチ

 小さい時に投げてくっつけて遊んだオナモミも、棘の先が少し曲がっていてくっつく機能があるが、野原に行って気がつくとくっついていた経験はない。秋になって実が茶色になって、ばらばらになったら同じようにくっつくのだろうか。

 東北に来て秋口に道の脇道に入ると、チカラシバやヌスビトハギの種がズボンなどにくっついてくる。名古屋にいた頃には周辺にヌスビトハギはなかったので、こちらでの経験である。ヌスビトハギはハギの仲間だが、茎がたくさん分かれており、花のつき方がバラバラした感じがする。実の形が盗人の足の形に似ているからつけられたものらしい。これもタオルか何かで払うとそれほど落とすのに難しくはない。

  アレチノヌスビトハギ

 こうして動物の体について遠くまで運んでもらう戦略を採っている植物は、タンポポなどと同じ戦略を取っていることになる。しかし、いつも思うのだが、くっつく時はしっかりとくっつかなければならないが、それが落ちたり取れたりする条件はどうなのか疑問になる。がっちりとくっついたままだと遠くまで運ばれはするが、他の場所で動物の毛から落ちなければ、種は広がらない。動物が寝そべったりする時に落ちるのか、それともくっついている棘の部分が劣化して機能を失うのか、そこはどうなっているのだろう。数年前にタモ網にたくさんのアメリカセンダングサがくっついて、そのまま数年経っているが、まだ全然取れていない。このままだと地面に落ちて種が広がることがないように思うのだが、特別の例なのだろうか。

   センダングサ

 このように種や実を広く分布させる戦略も、植物によって色々な違いがあることがわかる。これらの長所・短所を考えてみることも楽しいような気がする。

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