定点観測

動植物の写真を一か所でまとめて撮れる場所を知らないせいか、同じ場所を定期的に訪れて写真を撮ることが多い。天童にいた頃は山元沼や原崎沼が私のフィールドだった。蟹江に戻ってからは善太川、五条川、木曽三川の木曽川や長良川、藤前干潟に通っている。その中でも数日毎に出かけているのは何といっても善太川である。

  善太川新大井橋付近

一年を通して善太川で観察するようになったのは今年からだが、一年という季節の流れの中で善太川でもその変化を知ることができる。例えばカモの仲間のカルガモはこの辺りでは一年中見られるが、他のカモの仲間は冬にならなければ見ることができない。私が留鳥だと思っていたカイツブリやオオバンも夏になると姿を見かけなくなった。国外に移動したのか、国内の他地域に移動したのか分からないが、見かけなくなってしまった。

  藤前干潟(伊勢湾岸道を望む)

 ミコアイサやマガモは三月半ばまでにはいなくなるのに、コガモは五月半ばまで留まっていて、故郷のシベリアに帰らなくて良いのかと心配する程である。それでも六月になるといなくなるから、きっと日本海を渡ってシベリアに帰ったのだろう。数日おきに私が土手を通るので、カモたちの風情からすると擬人的にはまた来たかというような感じさえ受けてしまう。ミコアイサの数は一〇羽前後と多くはないので、私としてもだんだん愛着を感じるようになった。泳いでいる様子ばかりでなく、飛び始めから飛翔に入る姿を撮りたいのだが、私のカメラ技術ではなかなか上手く撮れない。私がカメラを持って土手を歩いていくとミコアイサは泳ぎの方向を何度も変えて、飛び立とうかこのままでいようかと葛藤しているのが分かる。ミコアイサはとても敏感なカモで危険を感じて飛び立つことが多いカモである。

  ミコアイサ

 冬期に沢山のカモと出会う善太川だが、春が過ぎていくとカモ類が殆どいなくなってしまう。その頃になるとカルガモも善太川に常時いる訳でなく、田んぼに移動していることも多い。善太川が閑散としてしまう。こんな光景を見て自分が取り残されてしまったようなカモ・ロスと言えそうなそんな寂しさを感じてしまった。一緒に行きたいけれど行かれないという感情である。秋には戻ってくることが頭で分かっていても、そういう感情が湧いてくるから不思議である。カモを四六時中観察したり世話をしている人々は、きっとこんな心理的な体験を一度はしているのではないかと思う。

  日光川の日光大橋の上流(併流する佐屋川)

 今年になって十月の半ばにコガモが数羽善太川に来ているのを見かけた。五月半ばまでいたのに十月半ばにはもう善太川に戻って来ている。コガモにとって日本は寒さや暗さから避難するための越冬場所とだけ考えていたが、この時期はまだシベリアは真っ暗ではない筈だ。これ程早く日本に来る理由は何故か。卵を産んでヒナを育てる場所が故郷ならシベリアが故郷に違いないのに、十月半ばにもう日本に来ている。越冬のためだけに来ているのではなさそうな感じがする。コガモのヒナが飛ぶ能力を身に着ければ勇んで来るのかも知れない。このことは長良川の河口堰の沼に来るハシビロガモについても言える。やはり五月半ば頃までいたのに十月半ばにはその沼に再来している。こんな汚い沼に何故これ程早く来るのだろうか。越冬で避難のためだけに来るというよりは産卵しヒナを育ててはいないものの、滞在時間からいって第二の故郷そのものではないかという解釈も成り立つ。シベリアも日本もカモたちにとって故郷なのではないか。こんなことが分かるようになったのも一年を通じての定点観測によってである。

   木曾三川(上段が長良川 下段が木曽川)

 この定点観測によって新しい発見や新しい動物たちに出会うことがある。いつも一つでも新しい動物との出会いがあり、写真が撮れれば良いなと思って通っている。当然全く成果がない時もある。これまで出会った動物を挙げてみるとヌートリア、イソシギ、カワセミ、ケリ、オオタカ、ハヤブサ、ミサゴ、カワラヒワ、ジョウビタキやモズ等である。必ず見かけるというよりも偶然に出会う感じである。カモに較べると数が少なく目立たないから気がつかないだけだろう。ヌートリア、イソシギ、カワセミは善太川に住んでいる。その他の鳥たちは時々善太川にやって来る。

例えばオオタカ、ハヤブサやミサゴ等の猛禽類が飛んでいると、カモやケリやカワラバトは大騒ぎして飛び交う。いつもの飛び方とは違うのでおかしいと思ってよく見ると、オオタカ、ハヤブサやミサゴが飛んでいる。オオタカやハヤブサは飛び交う群れの中にいたり、その群れの上空を飛んでいる。ミサゴは本来魚を捕食するのでカモたちに危険はない筈だが、それでも猛禽類の姿から逃げ惑うのだろう。こんなことも善太川で定点観測をしているうちに見えてきたことである。

 この定点観測にはいつも午後二時頃に出かけていた。川の水が満潮だとカワセミは餌が捕れないからかコンクリートの防護壁の上にはいないことが多い。カワセミの採餌行動を観察したいなら、干潮で川の中の獲物がはっきりと見える状態の時の方が見つけやすい。善太川の干満に合わせて観測に行った方が良いと思うようになった。インターネットで名古屋港の干満の時刻を調べて、それに合わせて出かけている。定点観測と定時観測の他に干満に合わせた観測も今検討しているところである。

                             

                           

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