フクジュソウ

天童の若松観音に行く道路脇にある廃屋の周りの畑跡に、フクジュソウの群生地がある。5月から6月頃に花が咲いた後の実がなっていた。実の形は緑色のプラタナスの実に似た形であった。初めて見たのがその実だったので、来年の春になったら花が咲く時期に写真を撮りに来ようとねらっていた。

フクジュソウの花

 今年(2014年)の天童は、例年より雪は多くなかったが、遅くまで雪が降って異常気象だと感じさせる気候であった。3月末まではそのフクジュソウの咲いていた場所は雪で埋もれていて様子を見に行っていたが、まだフクジュソウの芽が出ている気配はなかった。4月に入って見に行ったら雪はなくなっており、フクジュソウが一面に生えていて蕾ができていた。その後何回か写真を撮りに行ったが、雪がちらつくような気象状況なので、蕾のままでなかなか大きな花は開いてくれていなかった。

 フクジュソウは名古屋に住んでいた時には記憶になく、仙台に住むようになって、正月に床の間に置く鉢植えを売っているのを見てから、フクジュソウだと認識できるようになった。黄色い花は冬の寒い時期には目立つし、その花の色が黄金色であることも縁起が良いと思われるのだろう。

 私も会員だった極地方式研究会で、現場の教員たちに授業を援助するために、テキストや使用する教材等を用意する組織の名前を募集したことがあった。私は何となく、春の最初の力強さを念頭に置いて「フクジュソウ」が良いと思ったが、決まったのは「デポ」であった。登山用語でベースキャンプから第一、第二キャンプのように、頂上まで登る登山者の資材などを準備する機能を持つ場所を「デポ」というのである。そう考えるとフクジュソウよりは、機能的なイメージを湧きやすく合理的な名前だと、ある時間が経過してから納得した。私が考えたフイウジュソウよりはデポの方が学力の違いを感じさせ、自分の知力が足りなかったことを痛感したものだった。

 フクジュソウの花は一見すると黄金色であり、名前もお目出度い名前がついている。山形では特別養護老人ホームに「福寿荘」と名前がついた施設さえある。しかし、このフクジュソウはキンポウゲ科の仲間で、この仲間は毒草が多いのである。私は春になると野草を天ぷらにして食べるが、このキンポウゲとマメ科の仲間だけは食べないようにしている。ウマノアシガタ、オダマキなどは同じ葉が切れ込んだ葉でキンポウゲ科である。ケシ科のエンゴサクやコマ草は同じよう形の葉だが、今の私にはその違いがはっきりしないので、似た葉があれば食べないようにしている。

 ところが、こうしたフクジュソウの根が心臓に良いとの世間で評判がたって、福島県では実際にその根を煎じて飲んで死んだ人がいたようである。フクジュソウの毒は神経毒で、アドニトキシンという水溶性が高く微量でも死に至る猛毒である。胃腸薬のセンブリのように煎じて飲むというのが一般的だから、死亡した人もこうして死に至ったのである。症状は嘔吐と激しい胃の痛みが起こる。とにかく恐ろしいとしか言いようがないが、私たちの周りには、慣れ親しんでいる草花が、実は毒草というものがある。例えばスズランやスイセンなども毒草である。

   フクジュソウの実

 春の雪融けの頃でまだ暖かさを感じられない初春の頃に、フクジュソウは黄金色の花を咲かせ、少し経つと実がなる。今年もまだ蕾の状態のフクジュソウが多い中に、既に実がなっている物を見つけた。フクジュソウは風媒花でないはずだから、この時期にどんな虫が花粉を媒介するのだろう。1か月もすれば、桜やサクランボの花が咲くから、その時には、ミツバチやマメコバチが飛び出すと思われるが、まだそうした時期ではない。しかも気温が低いのになぜ受粉できるか不思議に思っていた。

  フクジュソウの花に集まる昆虫

 フキウジュソウの花は黄金色で、タンポポと同じように気温が高くなると花を開くが、太陽の方向へ花を向けて、パラボラアンテナのように太陽光線を集めて、花の中の温度を高くすると「植物は動けないけど強い」(北嶋廣敏 ソフトバンク新書)に書いてあった。そしてハナアブの仲間を集め、活発に活動させると共に、雌しべの成長を促す。気温が下がってくると、花を閉じ、雄しべや雌しべを守るというわけである。そんな積りでフクジュソウの花の写真を撮っていたら、花の中にアブと思われる小さな昆虫を見つけた。こんな季節にも、こうした昆虫が既に活動していることに驚いた。

 フクジュソウは、晩春には葉を枯らして、翌年の春まで休眠して過ごす。カタクリ、イチリンソウ、イチゲ、エンゴサクと同様な生態から、スプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれている。

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